ナチュラルキス
natural kiss

2007 Christmas特別編
第四話 するするの実行



佐原のこの部屋に泊まるのは今日が初めてではなかったが、この部屋に来るたびに、沙帆子はなんでか、ちょっぴり切なさが湧く。

沙帆子の知らない佐原…学生だった佐原が暮らしてきた部屋…

「髪、乾かしてやろうか?」

ベッドに腰掛けて、まだ湿っている髪をタオルで拭いていた沙帆子は、部屋に入ってきた佐原に振り向いた。

沙帆子と入れ替わりに風呂に入ったはずなのに…

まだ、パジャマの前をはだけたままだ。

「先生、もう上がったんですか、早いですね」

佐原の肌から目を逸らそうと、視線を泳がせながら彼女は言った。

「お前がのろい分、俺が早けりゃ、ちょうどいいだろ?」

「わたし、そんなに遅かったですか?」

「ああ、俺が苛立つくらい、充分な」

「それなら、先生、先に入ってよかったのに」

「お前が遅いんだから、どっちが先に入っても、一緒のことだろ」

少し機嫌が悪いようだ。

きっと、佐原の目の前で脱ぐだのの、とんでもない約束を、沙帆子が実行にうつすのを嫌がって逃げたせいだ。

沙帆子がやれば、自分もやると言っていた佐原だが…本当のところ怪しいもんだし…

ドライヤーを手にして、佐原は沙帆子のところにやってきた。

佐原は何も言わず、彼女を股の間に挟むようにして、ベッドに座り込んだ。

ドライヤーの熱が沙帆子の髪を揺らす。

そんな中、彼女の頭に触れている佐原の指の感触が、なんとも堪らない疼きを感じさせる。

うれしいんだけど…どうしていいかわからなくなる…そんな感じ…

「いい匂いだな」

ドライヤーを脇に置き、佐原は沙帆子の頭に顔をくっつけたようだった。
息を頭に感じた。

少し熱い…

「今日は…楽しかったか?」

「はい」

沙帆子は優等生のような返事をしてこくりと頷いた。

もちろんだ。最高のクリスマスイブだった。

佐原はいつもと比べると破格にやさしかったし…

佐原と初めて一緒に過ごしたクリスマス…
沙帆子にとって、ほんとうに特別な一日だった。

佐原の腕が前に回り、沙帆子をそっと抱きしめてきた。
嬉しさの大きさに、なぜか身体が小刻みに震えた。

こんなに幸せでいいんだろうか?

「それで?いったいどんな夢を見たんだ?」

抱きしめられている佐原の腕の愛しさに、彼女が頬を寄せたところで、佐原が唐突に言った。

「え?」

「夢だ。後で聞かせてもらうって言ったぞ」

そ、そうだった…

「サンタと、トナカイが出てきたんだろ?」

「ま、まあそうでした」

沙帆子は頬を染めながら、そう言い、後は頷くしかなかった。

頬が赤くなったのは、佐原の手のひらが沙帆子の身体をゆっくりと撫で回しているせいだ。

「それで?サンタがどうしたんだ?」

「それがその、起きたらトナカイだったんです」

「はあ?なんだそりゃ?」

「つまり、私がトナカイになってて」

「ははぁ、面白い夢みるもんだな。それで?」

「それでって、…窓の無い小屋に寝ててですね、なんか目が覚めちゃって、目覚ましで時間確かめたら…夜中の二時三十六分で…」

「ずいぶんはっきりした夢だな」

「そうなんです。かなりリアルな感じで…その目覚まし、先生が作ってくれたんです。赤い目覚まし。すっごく可愛かったんです」

「俺?お前、目覚まし時計が欲しいのか?」

「そういうことじゃなくて…マフラーも先生サンタさんが作ってくれたんですよ。」

真っ赤なマフラーの暖かさを思い出して、沙帆子は微笑んだ。

「夢の中の俺…ずいぶんと器用だな」

「そりゃあもう、なんせサンタさんですから」

「サンタ?俺が?」

「はい。もちろん、先生がサンタさんですよ」

佐原の瞳が、嬉しげにきらめいたように見えた。

自分がサンタだったのが、沙帆子の夢の中とはいえ嬉しかったらしい。

「それで?」

「はい。雪が降ってるか、確かめに外に出たんです」

「降ってたのか?」

「ええ。そりゃあもう、凄い綺麗な景色でしたよ。みとれちゃうくらい」

沙帆子は夢の中の幻想的な景色を頭の中に描いて、笑みを浮かべた。

「それからどうしたんだ?」

催促するように佐原が言った。

夢の話に気が向いているらしく、先ほどまで沙帆子をドキドキさせていた手も、彼女のお腹の脇のあたりで止まったままだ。

「それでまぁ、先生サンタさんの住んでる丸太小屋があってですね」

「なんだ、俺とお前、別々に住んでるのか?」

「そりゃあ、先生はサンタさんで、わたしはトナカイなんで」

「お前、トナカイって…いったいどんなかっこうしてたんだ?」

「どんなって、もちろんトナカイの毛皮でしたよ。あ、でも着ぐるみみたいな感じでした。全身ほわほわな毛で、ぬいぐるみみたいだったかも」

「そりゃあ、見たかったな」

背中にくすくす笑う佐原の胸があたる感触に、沙帆子はじーんとした至福を感じた。

「不思議だったのは、ぜったい脱げない毛皮を、先生するするうって…」

沙帆子ははっとして言葉を止めた。

危ない。危なすぎる。とんでもないことを口走るところだった!

「するする?」

「な、な、な、なんでも、なんでもです」

「ははーん。だいたいの予想はついたぞ」

「せ、先生、忘れて忘れて、いまのとこ、全部忘れてくださいぃ~」

佐原に飛びついた沙帆子は、逆にころんと転がされ、覆いかぶさってきた佐原の身体でベッドに押し付けられていた。

「やつに、どうやって、脱がされた?」

「は、は・あ?」

やつって、先生自身なのに…

「毛皮脱がされたんだろ?」

「いや、そ、それがその…ですね。なんというかぁ」

「それで、脱がされてから、そいつに何された?」

「そ、そいつって、先生なんですけどぉ」

「俺の記憶にないのに、そのサンタが俺って言えるか?」

そんなことを言われても困るのだが…

「わた、わたしの中では、先生以外の誰でもないです」

「ふーん」

ものすごく意地悪な目だ…

く、来る!

いたぶりが…

だが佐原は沙帆子のほっぺたを掴んでブンブン振ったり、耳たぶを引っ張ったりすることもなく、その手は…

「せ、先生?あ、あのの…」

彼女の寝間着のボタンを、夢と同じに、するすると外してしまった。

はだけられた胸を佐原が見つめているのを見て、沙帆子は恥ずかしさで真っ赤になり、あられもない胸を隠そうとした。

「せ、先生、見ないで」

「ヤダね」

佐原は沙帆子の唇をじっくりと味わった後、首筋や胸に唇で触れ、もどかしい疼きでたっぷりと沙帆子を翻弄したのち、顔を上げた。

「俺と夢のサンタとどっちがいい?」

「そ、そんなの…」

「うん?」

佐原は答えを待つのがもどかしいとでもいうように、また沙帆子の首筋に顔をうずめた。

リアルすぎる現実…リアルすぎる感覚…

「沙帆子」

低い良く響く声は、沙帆子の頭をくらくらさせる。

佐原の熱を直接身体で感じながら、沙帆子は甘い疼きに身をゆだねた。



End






このお話は、2007年のクリスマスに、
特別番外編として掲載したお話です。
今回初めて読んだ方にも、
すでに既読の方にも楽しんでいただけたなら嬉しいです♪
メリーークリスマス~

fuu


  
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