ナチュラルキス
natural kiss

2009 Christmas特別編
ひと味違うサンタ



リンリンリンリン……遠くに鈴の音が聞こえ、沙帆子は目を覚ました。

うん? もう朝か……

まだ重く感じる瞼を擦り、沙帆子は「あわわわ」と口に手を当てて、あくびしつつ目を開けた。

そだ。今日は、クリスマスだ。

沙帆子は、首を回し枕の辺りを見たが、いつもと同じで何も目新しいものはなかった。

今年も宝探しってことか?

沙帆子の家に来る、サンタクロースさんは、プレゼントをまともに置いて行った事がない。

だが、この部屋のどこかに隠されているに違いないのだ。

沙帆子はまず、寒いのを我慢してベッドから降り、上掛け布団をひっぺがしてみた。

「ないなー。クローゼットの中かな。それとも、机の下?」

あちこち探したが、プレゼントらしきものは見つけられない。

いったんお宝探しは中止して、顔でも洗いに行くか。

沙帆子はパジャマの上に厚手の毛糸のカーデガンを羽織って部屋から出た。

顔を洗っていると、足音が聞こえた。

「よお、沙帆子、どうだサンタクロースは来たか?」

「来てないよ」

沙帆子はタオルで顔を拭きながら、したり顔をしているんだろう父に、そっぽを向いたままつれなく答えた。

「むふふ、そうか。仕方がない、ヒントを授けよう」

仕方がないとかの話じゃないと思うけど……

「ヒント?」

「今年のサンタはひと味もふた味も違うぞ」

幸弘はそう言うと、ポケットから輪っかになっているおもちゃの鈴を取り出し、リンリン鳴らしながら愉快そうに去って行った。

あのおもちゃの鈴は、昔、沙帆子が遊んでいた代物に違いない。

しかし、目覚めのリンリンの音の正体はこれだったのか……

パパったら、あんなもの、どこから探し出し出したのだ。

プレゼントは確かに欲しいが、必死になって探さなくとも、いずれは手に入るのだ。

いまの沙帆子はガキじゃないのだ。女子高生なのだ。

この世が終わったかのように、プレゼントが見つからないと、ワーワー泣きながら意味もなく部屋を駆け回るようなことはもうしない。

先に朝食を食べてから、ゆっくり探すことにしようと、沙帆子は部屋に戻ってクローゼットを開け、服を着替えた。

クローゼットの扉を閉めようとした瞬間、沙帆子はあれっと気づいた。

ぶら下っている服に、見覚えがないものが混じっているではないか。

この黒いやつって……

沙帆子は黒いニットの服を取り出してみた。

「これかぁ?」

ずいぶんお高そうなニットのワンピースだった。

ちょっとシックで大人びてて、沙帆子はウキウキした。

もちろんこのワンピースを選んだのは母だろう。

ママは娘の気持ち、ほんとよく分かってるよ。

子どもっぽい服から卒業して、少しは大人っぽい服が欲しいものだと思っていたのだ。

いま着たばかりの服を急いで脱ぎ捨て、沙帆子はニットワンピースを身につけた。

うわわぁ、いいよ、いいよ。ちょっとお姉さんっぽい。

テンションの上がった沙帆子は部屋を飛び出し、キッチンに顔を出した。

「ママ、どう?」

「あら、似合うじゃない」

「な、なんだよ。もう見つけちまったのか?」

「パパ、ありがとう!」

ソファに座り、つまらなそうに顔を向けてきた父の首に、沙帆子は後ろからぎゅっと抱きついた。



End






  
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