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ひと味違うサンタ
リンリンリンリン……遠くに鈴の音が聞こえ、沙帆子は目を覚ました。
うん? もう朝か……
まだ重く感じる瞼を擦り、沙帆子は「あわわわ」と口に手を当てて、あくびしつつ目を開けた。
そだ。今日は、クリスマスだ。
沙帆子は、首を回し枕の辺りを見たが、いつもと同じで何も目新しいものはなかった。
今年も宝探しってことか?
沙帆子の家に来る、サンタクロースさんは、プレゼントをまともに置いて行った事がない。
だが、この部屋のどこかに隠されているに違いないのだ。
沙帆子はまず、寒いのを我慢してベッドから降り、上掛け布団をひっぺがしてみた。
「ないなー。クローゼットの中かな。それとも、机の下?」
あちこち探したが、プレゼントらしきものは見つけられない。
いったんお宝探しは中止して、顔でも洗いに行くか。
沙帆子はパジャマの上に厚手の毛糸のカーデガンを羽織って部屋から出た。
顔を洗っていると、足音が聞こえた。
「よお、沙帆子、どうだサンタクロースは来たか?」
「来てないよ」
沙帆子はタオルで顔を拭きながら、したり顔をしているんだろう父に、そっぽを向いたままつれなく答えた。
「むふふ、そうか。仕方がない、ヒントを授けよう」
仕方がないとかの話じゃないと思うけど……
「ヒント?」
「今年のサンタはひと味もふた味も違うぞ」
幸弘はそう言うと、ポケットから輪っかになっているおもちゃの鈴を取り出し、リンリン鳴らしながら愉快そうに去って行った。
あのおもちゃの鈴は、昔、沙帆子が遊んでいた代物に違いない。
しかし、目覚めのリンリンの音の正体はこれだったのか……
パパったら、あんなもの、どこから探し出し出したのだ。
プレゼントは確かに欲しいが、必死になって探さなくとも、いずれは手に入るのだ。
いまの沙帆子はガキじゃないのだ。女子高生なのだ。
この世が終わったかのように、プレゼントが見つからないと、ワーワー泣きながら意味もなく部屋を駆け回るようなことはもうしない。
先に朝食を食べてから、ゆっくり探すことにしようと、沙帆子は部屋に戻ってクローゼットを開け、服を着替えた。
クローゼットの扉を閉めようとした瞬間、沙帆子はあれっと気づいた。
ぶら下っている服に、見覚えがないものが混じっているではないか。
この黒いやつって……
沙帆子は黒いニットの服を取り出してみた。
「これかぁ?」
ずいぶんお高そうなニットのワンピースだった。
ちょっとシックで大人びてて、沙帆子はウキウキした。
もちろんこのワンピースを選んだのは母だろう。
ママは娘の気持ち、ほんとよく分かってるよ。
子どもっぽい服から卒業して、少しは大人っぽい服が欲しいものだと思っていたのだ。
いま着たばかりの服を急いで脱ぎ捨て、沙帆子はニットワンピースを身につけた。
うわわぁ、いいよ、いいよ。ちょっとお姉さんっぽい。
テンションの上がった沙帆子は部屋を飛び出し、キッチンに顔を出した。
「ママ、どう?」
「あら、似合うじゃない」
「な、なんだよ。もう見つけちまったのか?」
「パパ、ありがとう!」
ソファに座り、つまらなそうに顔を向けてきた父の首に、沙帆子は後ろからぎゅっと抱きついた。
End
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