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……… うにゃ?
にゃんだか、やたらひさしぶりな気がするのは…気のせいかにゃ???
まあ…とにゃかく…
第10話なのにゃ
前回、fuuと貴弘…脱げない生半着ぐるみハムスターになったのでした。
fuuは、みっともないといいつつべそべそ泣きながらも、ひとりでなかったことに嬉しがってるあほぶりでしたが…
かたや貴弘の方は…強烈な現実逃避状態になっているもようです。
目の焦点、あってなかったし…
すでに長らくほったらかしで…人間に戻れぬまま…だなんて…fuuuuu
可哀想に…
(お前が言うなっ!…by 翔)
だが第10話…場面はお城ではないのでしたよ。。。(すまんねぇ…貴弘)
で、我々はどこに行くかと言うと…
第10話 『コックさんは誰?』
「先生、先生」
必死な呼び声とともに、吉永の襟首を両手で掴んだ綾乃、精一杯の力で揺らす。
気絶したまま地べたに転がっている吉永、その無茶な行動のせいで、ブンブンと音を立てて頭を振られ続けている。
細こいからだのどこにそんな力があるのか、不思議なほどの馬鹿力ぶりに、玲香は唖然として見つめていた。
「どうした?」
玲香はその聞きなれた声に安堵して振り返った。
「お兄ちゃん」
「吉永先生、いったいどうしたんだ?」
「お兄ちゃん、早く私たち逃げないと」
玲香は、頼りがいのある兄に飛びついてきた。
血相を変えた妹の様子に、聡が眉を潜めた。
聡の隣にいる亜衣莉も驚いて目を見張っている。
「逃げる?玲香、いったい何があったんだ?」
「だからお鍋だよ。ぐつぐつに煮えてて…」
鍋という単語に、亜衣莉の頬が引きつった。
「そ、それは…」
「この小屋、魔女の家なのよ。間違いないって」
玲香の言葉に、綾乃も大きく頷いた。
綾乃の腕の中で、吉永は血の気の引いた青白い顔で、死んだようにぐったりとしている。
「悪い魔女のよ。あの鍋の中身、絶対に毒だわ。気色悪い色してて、ぶくぶく泡が立ってるの。そんですっごい悪臭放ってるのよ」
「あ、悪臭…」
亜衣莉の顔はさらに引きつった。
「ああっ!…も、もしかして」
何を思いついたのか、玲香がぴょんと跳ねた。
「この小屋、白雪姫の継母の、悪いお后様のアジトなんじゃない?」
「おおっ!」
その発言に、綾乃が大きく頷いた。
「き、きっとそうよ、玲香。あの鍋はやっぱり毒で、それをりんごに注入するんだわ」
玲香と対を張るように、綾乃の妄想もどんどん膨らんでゆくようだ。
亜衣莉は、正直に真実を話そうと思うのだが、とても言葉を挟める間など得られない。
「そうよそうよ」
綾乃が叫びをあげた。
だが綾乃、どことなく楽しげに見えるのは気のせいだろうか?
「ど、どうする?どうしよう。わたしたちここにいちゃいけないよぉ」
玲香は、恐れに囚われて混乱状態に陥ったようだ。
聡が、ふたりの注意を引こうとしてか、パンと両手を二度、派手に打ち鳴らした。
綾乃と玲香の視線が自分に向いたのを確認して、聡は口を開いた。
「お前たち、少し冷静に考えろ。この小屋の持ち主がお后様だというのなら、なんの心配も必要ないだろ?」
「な、なんで。お兄ちゃん、悪い魔女なんだよ。毒鍋なんだよ」
「玲香、お前、お后様が誰か忘れてるだろ?」
「えっ!」「はい?」
綾乃と玲香はほぼ同時に叫び、同時に「あ」と呟いた。
「そういや…葉奈、だったよね」
ふたりはようやく冷静になれたようだった。
亜衣莉は、聡の口から真実を語られるのを察して、思わず彼の背後に隠れた。
「そうだ。それに、この小屋は悪い魔女の住まいじゃない」
「聡さん、どうしてわかるの?」と綾乃。
「小人の小屋なんだ。つまり、…認めるようで口にしたくはないんだが…われわれのということだな。僕らはけして道を間違えたわけじゃない。ここで正しいんだ」
「でも…なら、あの鍋はいったい誰のしわざなの?」
「わかった。わかったよ」
そう叫んだ玲香に、綾乃が振り向いた。
「玲香、何がわかったの?」
「ハナのしわざなのよ。私たちを驚かしてやろうと思ったんだわ」
綾乃が「あーっ」と納得した声を張り上げた。
「きっとそうよ。あーんくやしい。まんまとひっかかっちゃったわ」
「あ…あの」
ふたりの大きな勘違いに、亜衣莉、おずおずと本当のことを申し出ようとしたところを聡に止められた。
「聡さん?」
「そうとわかったら、さっさと鍋の中身を片付けよう。その先に川がある。持ってって中身を流してしまえばいい」
「そうね。ハナちゃんにはめられて、大騒ぎしたなんて知られたらしゃくだし…このこと黙ってましょうよ」
どうやら、事態は間違いのうちに収束しそうな気配だった。
亜衣莉は弱りきって唇を噛んだ。
「それより、綾乃。吉永先生は大丈夫なのか?」
「あ…そうだった」
綾乃、聡の言葉でようやく腕に抱えている吉永の状態を思い出した。
彼女は、吉永の口元に耳を当て、ほっとした。
「先生息してるぅ」
「それは良かった。よし、吉永先生は、そこの芝生の上に寝かせておこう。とにかく、鍋を僕が片付ける」
「お兄ちゃん。無理しないほうがいいよ。毒なんだよ」
「あ、あの。わたしが…片付けます。慣れてますし…」
亜衣莉の申し出に、玲香と綾乃が、きょとんとした。
「慣れてる?」
「ああ。なんでもない。さ、亜衣莉も、僕に任せておいてくれればいいから」
聡は息を止めると、部屋の中に駆け込んでいった。
「聡さん?」
亜衣莉は、聡の後を追って駆け出そうとして、腕を掴まれた。
「行かないほうがいいって。お兄ちゃんに任せて、わたしらここで待ってようよ。ねっ」
玲香の強固な説得に、亜衣莉は足を止めるしかなかった。
待つほどもなく、大鍋を両手に抱えた聡が飛び出してきた。
亜衣莉は、鍋の中身を凝視した。
暗黒色した青緑色の液体が、波打っている。
漂う匂いも、いつかかいだ懐かしい匂いに酷似しているようだった…
聡は匂いに度肝を抜かれたのか、余裕がまるでないのか、足を止めず、ものすごい勢いで、森の中へと駆けていった。
「聡さん」
亜衣莉も聡の後を追って行った。
聡と亜衣莉を見送った玲香は、ほっと安堵の息をついた。
「鍋、片付いて良かったね」
「うん。でも、まだ吉永先生気絶したままなの。玲香、どうしよう?」
「そうだったね」
綾乃、自分の腕の中の吉永に視線を向けた。
ぴくりとも動かない吉永…気づく気配はない。
「先生?大丈夫ですか?」
綾乃はやさしく吉永の胸を揺らした。
「ねぇ、綾乃…ここって物語の中なわけでしょう?」
「そうなのかな?それで、玲香…何?」
「だからね。ここは白雪姫の世界なわけじゃない」
「うん…ハナ雪姫だけど」
「細かいことはいいのよ。私が言いたいのは、仮死状態になった姫を助けたのはなんだったかってことなのよ」
「毒りんご食べて倒れたのよね。で、白馬に乗った王子様がさっそうと現れて…」
綾乃の目に、強い理解の色が見えたのを認めて、玲香が大きく頷いた。
「そうよ。王子様のキス」
「でも、白馬に乗った王子様なんて、どこにもいそうにないわよ?」
「もう。綾乃、ちがうって。キスが呪い解除の鍵なのよ。だから、綾乃も先生にキスをしてあげれば…」
綾乃の顔が、みるみる赤らんだ。
「そ、そんなのだめよ。先生の唇は、なによりも神聖なのも、も、ものなのよ」
「神聖?仮死状態なのに…そんなこと言ってる場合?」
「仮死…せ、先生!」
「あんま、ゆすんないほうがいいよ、綾乃」
「で、でも…わ、わかったわ。キスをすればいいのよね。そしたら先生が助かって…」
覚悟を決めたのか、そう言った綾乃が玲香に振り向いた。
「ね、玲香?」
「何?」
「これって、ファーストキスの数に入らないよね」
泣きべそ顔で、綾乃はすがるように言った。
玲香は意外そうな顔で首をひねった。
「綾乃は、吉永先生を好きなんでしょう?」
「そ、そうだけど…」
「ならいいじゃん。キスしても…」
「そういうことじゃないのよ。ファーストキスは、気絶したひとを起こすためのものじゃないの。もっと甘くて、夢見る気持ちいっぱいの…」
そのとき、森の方から、誰かが走ってくる足音が聞こえ、ほどなく亜衣莉が戻ってきた。
「鍋はどうなったの?」 玲香が尋ねた。
「はい。いま、聡さんに洗ってもらってます。あの、吉永先生はご無事ですか?ほんとうに申し訳ありません」
「亜衣莉さんが謝ることないわよ。これは魔女ハナのせいなんだもん」
「ハナちゃんは、ハナ雪姫で…魔女では…」
「名前なんか関係ないって…それより、吉永先生よ」
「あ。なら、私が、お詫びに何か、気付け薬になりそうなものを作らせていただきます」
「気付け薬?」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
亜衣莉はあたふた、小屋の中へと消えたのだった。
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