思いは果てしなく クリスマス特別編 |
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その7 比類ない贈り物 ダンスを終えたふたりが椅子に落ち着くと、曲がまた変わり、大きなトレーを持った店員がふたりやってきて、それぞれ尚と響の前に置いた。 豪華な磁器のトレーの上の凝ったデザートを目にした尚は、小さく手を叩き、歓声を上げた。 感激した様子で目をキラキラさせている。 全部形の違う、小さな器に盛られたデザートが四種類。 その中央には、小花でデコレーションされた小さな台がちょこんと載っていた。 店長が、各種デザートの説明を流れるようにしてくれ、その説明で、空いている台は、アイスクリームのデザートを載せるためのものだということが分かった。 響はごくりと唾を飲み込んだ。 このデザートの台を見た瞬間にひらめいたアイディア。 そして、ずっと心に置いていた、ポケットに入れた四角い小さな箱の存在… 彼は思わずポケットに手を突っ込んで、その箱を握り締めていた。 「響君?どうかした?」 純な瞳で見つめられ、響はいささか狼狽した。 「いや…」 尚の瞳は、この場の雰囲気に甘く酔っているように見える。 今という時は、女の子が望む、最高にロマンティクなシチュエーションなのに違いない。 いま、しか、ないのかもしれない… 響は自分の躊躇いにケリをつけるために、思い切り良く立ち上がった。 「響君、あの、どうしたの?」 緊張からか、喉がからからで、思うように言葉は出てきそうもなかった。 彼はポケットの中に突っ込んだままの手を引き抜き、デザートの中央にある台の上に、それを置いた。 台は箱にぴったりで、まるでそのために用意されたもののようにすら思えた。 固まったまま箱を見つめていた尚は、箱から響に視線を向けてきた。 「尚に…」 声が掠れ、響は一度言葉を止めてコホンと咳をし、また続けた。 「まだ僕には、これくらいのものしか贈れない。けど、受け取ってくれるか、尚」 両手を胸のところで合わせて、響の顔を一心に見つめていた尚の瞳から涙が零れ落ち、響はうろたえた。 「尚?」 「あ、開けて…いい?」 「も、もちろんだ…」 けど、と続けそうになって、響はぐっと唇を噛んだ。 指輪を見た尚は、本当にがっかりしないだろか? どんな指輪でも、尚の喜びは変わらないと言った成道の言葉は、間違いないと思うのに、不安でならない。 不安に押しつぶされそうになっている響の目の前で、尚は箱のリボンとラッピングをぎこちなくはがし、震える指で箱の蓋を開けた。 尚は開いたままの箱を額に当てて俯き、静かに泣き始めた。 響は肩に手を置かれて、驚いて顔をあげた。 すっかりその存在を忘れていた店長だった。 無我夢中に近い状態ですっかり頭に無かったが、この場にいるのはふたりだけではなかったのだった。 響は恥ずかしさを隠そうとして、ことさらクールな顔を取り繕ったが、頬が薄く染まっていては、その努力も虚しい。 「お嬢様の指に、はめて差し上げては…?」 さりげなく促され、そうすることがとても正しいような気がして彼は立ち上がり、椅子に座った尚の傍らに跪くと、彼女の指に指輪をはめた。 尚のほっそりした綺麗な指にはめられた指輪… 彼の思いにはとても足りない、小さな石を見つめて、響は哀しくなった。 「尚…あの」 「響君」 尚は座ったまま、響の肩に腕を回して抱きついてきた。 彼は尚の頭の後ろにそっと手を触れて、やさしく撫でた。 「いずれ、もっと尚にふさわしい指輪を、絶対にプレゼントするから、いまはこれで…」 「これでいい。…他のなんていらない…これでいい。大切にする…ありがとう、響君」 「うん…うん…」 響は幾度も頷き、泣き止めない尚に応え続けた。 夢のような夜… 響はけだるい疲れを感じていたが、いつまで経っても眠れずにいた。 明日の朝、目が覚めたら…何もかもが彼の妄想だったなんてことに… 想像もつかないほどのしあわせを満喫し…なにもかもがあまりに甘美だった… 響は尚の寝顔を見つめて、長い息を吐き出した。 一糸纏わぬ尚が、響の胸に抱かれて眠っている。 響と尚に、福引とはいえ、特別すぎる豪華なディナーを提供してくれた店長には、心からの感謝をして、ふたりは店を後した。 店長は赤くなった瞼で目を潤ませ、またぜひおいでくださいと、社交辞令でなく言って、ふたりを見送ってくれた。 店を後にしながら、彼はいずれ必ず自分の稼ぎで、今日と同じ内容のディナーに尚を連れてゆくと、固く心に誓った。 ふたりはその後、響の部屋に戻ってきた。 その後の時間は、響にとってはまるで魔法のような時だった。 なにもかもが自然で、めくるめくときを過ごしているうちに、甘い時は過ぎていった。 「なんだか知らないが…夢みたいな夜だったな」 響は知らず口にしていた。 尚のいない長い空虚な時間の穴埋めに、誰かが魔法の夜を授けてくれたのかも… あの『あきだ』すら、邪魔しに来なかったし… 彼は小さい笑いを吹くと、尚の寝顔を見つめ、彼女の目じりにそっと指先を当てた。 そして、頬をそっとなぞり、鼻筋をなぞり、唇に触れた。 唇のラインをゆっくりと撫でると、尚がふるっと身体を震わせた。 その妖艶な姿に、響の身体の芯に、ぞくりと甘い震えが走った。 「…今夜は聖夜なんだよな…」 サンタクロースからの贈り物なのかもしれないな… かすかに動いている尚の睫毛の先を見つめながら、響は小さく微笑み、彼女の首筋に顔を埋めた。 意識が飛んでしまいそうな、あまやかな香りが、響の欲望を派手にくすぐる。 もう一度尚を味わいたい気持ちがむくむくと頭をもたげ、響は強い意志でそれを押しとどめようとした。 声にならない微かな呟きに、響は顔をあげた。 薄く開かれた瞼の下から、尚の瞳が見える。 「尚…起こした…ごめん」 尚はまだ夢の中にいるような表情で、ゆるく首を振った。 彼女は左手を上げて、自分の目の前に持ってくると、じっと見つめた。 「夢じゃなかった…」 響の贈った、小さな石のはまった指輪を、尚は夢見るように見つめている。 そんな尚の表情に、彼の胸は、耐えられないほど切なく疼いた。 「尚、大切にする。しあわせにするから…」 「響君と一緒なら…いつだってわたしはしあわせだから」 両手をあげて響の頬に手を触れた尚が、突然両手を引いた。 どうやら、自分が何も纏っていないということに、気づいたらしい。 頬を真っ赤に染めた尚は、両手でぎゅっと自分の胸を押さえ込んでしまった。 響は、笑いを噛み殺しながら、そんな尚に覆いかぶさった。 尚にとって、胸と同じほど無防備にしたくない部分に、とんでもないものが触れている。 彼女はぎょっとしたように目を見開き、一瞬胸を隠している両手で大切な下の部分の守りに回そうとして…固まった。 どうやら、どちらを守るべきか決めきれずに、固まるしかなかったらしい。 響は甘い悪意にそそのかされて、下半身をゆっくり動かした。 硬く固体化したものが、ふたりの肌に挟まれて、偉大すぎる存在感を発揮している。 エロチックな響の腰の動きに、固まったままの尚の目は、まんまるになった。 「あ、あ、あ」 「尚、もう一度…いいよね」 響の甘い囁きに、尚は真っ赤な顔でぎゅっと目を閉じた。 「あ、あの、わ、わたし…プ、プレゼントを…まだ渡して、て…なな、なく…ない」 「いまは尚が贈り物だろ?いくらでももらいたいな…朝までたっぷり…」 響は尚の手をそっとどかし、やわらかなふくらみを自分の手のひらで包むと、意味不明に何か言っている尚の唇を、やさしく塞いだ。 End あとがき いかがだったでしょうか? 7話まで延びただけ、ご満足いただけていると嬉しいのですが… 「一番おいしいところがなかった」とお思いの方も多いかもしれませんが… やさしい風ではこれが精一杯ですね。笑 空白の部分は、皆様の想像を、自由に膨らませていただけたらと思います。 まあでも、ラストは…ちょっと…やさしい風にしては、イッテいたと言えるかもですよね…笑 響と尚のお話は、これで終りではありません。今後も続きます。 またふたりの登場を楽しみにしてくださると、ふたりも喜びます。 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。 fuu おまけ♪のお話へ続きます |
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