《シンデレラになれなくて》 番外編
 優誠birthday記念+サイト6周年記念
《シンデレラになれなくて、ふぁんたじぃだぞ》
白き花を探して
第二十二話 素敵な贈り物



自分の部屋に入ったユウセイは、言葉に出来ない思いを抱え、マナミをじっと見つめた。

「あ、あの、ユウセイさん……ほ、ほんとに、わたしでいいんですか? いいんでしょうか?」

まったく、マナミときたら、いまさらなことを言う。

「私の妻は、マナ、君しかいない」

「で、でも……ユウセイさんと結婚するというとは……その……この国の……」

「いずれは王妃になる。それは嫌かい?」

「いやというより……わたしなんかで、務まるのかなって……」

不安そうに両手を握り合わせて言う。

「私がついているんだよ。君に信用されていないようで、傷つくんだが」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「マナ、君を愛している」

ユウセイの言葉に、マナミが頬をぽっと桃色に染める。

もじもじしているさまが、なんとも可愛らしい。

「マナ……君は?」

ユウセイは、微笑みながら催促した。

「わ、わたしも……」

苦しげに口にするマナミの瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。

愛しさに、胸が張り裂けそうだ。

ユウセイは、片膝を折り、戸惑っているマナミの手をそっと取ると、彼女を見上げた。

いま、彼女がここにいることが、こうして彼女の手を取っていることが、奇跡に思える。

いや、奇跡なのかもしれない……

「マナ……私の妃になってくれますか?」

「は、はい」

涙で顔をくしゃくしゃにして答えるマナミを、万感の思いで見つめる。

マナミを、妃に迎えられるのだ。

安堵と至福感が、いまさら突き上げてくる。

ユウセイは立ち上がり、マナミを抱き締めた。

彼女を取り戻すために力を貸してくれた皆に、彼は心から感謝した。


至福に浸っているとと、ココンと、ガラスを叩くような小さな音がした。

窓に目を向けて、ユウセイは笑みを浮かべた。

先ほど消えてしまったふたりだ。

どうやら、婚儀に参加するので、着替えてきたらしい。

老人は真っ白な賢者の衣装をまとい、花売り娘は真紅のドレス姿だ。

可愛らしい魔女が、窓の向こうから手を振っている。

「賢者様、魔女様」

嬉しげに叫んだマナミは、一目散に窓に走り寄って行く。
彼女の手を握り締めていたユウセイも、一緒に移動する。

やれやれ、邪魔者ふたりの登場か……

だが、とても追い払えそうにない。

歓待しながら、窓を開け放った途端、驚いたことに、雪のような花びらが視界を掠めるほど舞い落ちてきた。

「わあっ、綺麗」

「これは? 君の花だ」

紛れもなく、マナミの白き花の花びら……

「えっ? わ、わたしの?」

戸惑いながら、マナミが聞いてくる。

ユウセイは、「ああ」と答えながら、手のひらを前に差し出した。

その手の上に、白き花が舞い落ちる。

花は消えることなく、いや、それどころか眩しい光を放った。

「地の精霊たちからの贈り物よ。そしてこれは、シュウメイとシズネから」

ユウセイとマナミに向けて差し出されたのは、土でできた天使。

「ふたつに割れていたのに」

「彼らは、地の精霊の長と、その妹よ。これくらい簡単に直せるわ」

「いつでも遊びにおいでとのことですよ。それと、貴方がたふたりを招いて、地の精霊の地でも、婚礼の祝いの宴を開きたいそうです」

「それは嬉しいな」

マナミも嬉しそうに笑っている。

「ふふん。わたしとケイスケからも、お祝いをあげちゃうわよ」

「モモ、君、本気なのか?」

老人が慌てたように言うと、花売り娘は「もちろんよぉ」と笑う。

「ちょっと、ふたりとも、こっちにきて、きて」

花売り娘は、ふたりの手をがっちりと握り、ベランダに引っ張っていく。

「じゃじゃーーーん!」

大きな身振りとともに、花売り娘はベランダの向こう側を指す。

目を向けた先にあるのは……花売り娘の、例の舟だが……

あの中に、贈り物が入っているんだろうか?

「ユウセイさん、あれって、なんなんですか?」

浴槽の舟をさして、マナミが聞いてきた。

「あれは、魔女様の……」

「あれに乗れば、あっという間に故郷に帰れるわよ。マナミ」

花売り娘は、したり顔でマナミに呼びかける。

「はい? 魔女様の乗り物なんですか?」

「まあね。行きがかりで、そういうことになっちゃったんだけど。これが案外快適なのよ」

花売り娘の言葉を鵜呑みにし、マナミは感心したように頷く。

「ふたりでだと、ちょっと狭いかもしれないけど……乗れないことはないと思うし……」

そう舟を確認するように見ながら言った花売り娘は、ユウセイを見てからにやりと笑い、そしてマナミに向いて口を開いた。

「王子様と喧嘩したら、これに飛び乗りなさい」

「え?」

「すぐにご実家に帰れちゃうわよ。そしたら、王子様は三日も駆けて馬であなたを迎えにきたあげく、ペコペコ頭を下げて、帰ってきてくださいって言うしかないわけよ」

得々としてマナミに説明する花売り娘に、ユウセイは眩暈がした。

「……魔女様」

「凄いんですね。なんだか形は……お風呂の湯船みたいですけど」

まさに湯船なのだ。

あの瞬間のことを思い出してしまい、笑いが込み上げてならない。

湯船だと当てられた花売り娘も、気まずく感じたのか、顔を赤らめる。

「ま、まあ、もとは湯船よ。けど、これはもう舟なの。舟でしかありえないの。あなたのうちまで、三十分くらいで飛んで行けちゃうのよ」

「そ、そうなのですか?」

確かに役に立つアイテムだと思うが、喧嘩して実家云々はいただけないし、元が湯船というのもいただけない。

マナミとふたりで乗り込んでいる姿を想像し、ありえないと思う。

どうせなら、老人の舟ならばよかったのに……あれなら、ふたりが乗るのにちょうどよいし、見た目も悪くない。

「あの……賢者様、できれば、賢者様の舟のほうをいただけませんか?」

ユウセイが言うと、花売り娘が目を三角に吊り上げた。

「まあっ、これじゃいやだっていうの? プレゼント用に、ピンクの大きなリボンまでくっつけたっていうのに。結ぶの、すっごい苦労したのよ」

花売り娘が噛みつくように言った途端、当の湯船の舟がくるりと回転した。

うわっ!

花売り娘の言葉どおり、大きなピンクのりぼんがくっついている。

さ、最悪だ……

こんなもの絶対いらないと言おうとした瞬間、マナミが「わあっ」と嬉しそうな声を上げた。

ユウセイがマナミに向くと、マナミもユウセイを見上げてくる。

その目は、キラキラと輝いていた。

「かわいいですね。それに、これでいつでも両親のところに行けるんですね。三十分でつけちゃうなら、日帰りだって……。賢者様、魔女様、ありがとうございます」

感激してお礼を言うマナミを、ユウセイは言葉なく見つめた。

こうなっては、こんなものいらないと、ユウセイの口からは言えない。

「ちょっと、乗ってみない?」

花売り娘の誘いに、ユウセイは強く首を左右に振った。

「それはまたあとで。婚礼の時間が迫っているので、我々は急いで着替えなければならないのですよ」

乗る気満々だったらしいマナミは、ひどくがっかりしたようだったが、ここはなにがあっても引き下がれない。

「おふたりとも、婚礼に参加してくださるのですよね?」

盛装をしているふたりを見て、ユウセイは尋ねた。

「もちろんですとも」

老人の返事に、ユウセイはほっとして頷いた。

ふたりにはぜひとも、出席してほしい。

「では、またあとで。失礼します」

マナミを促し、部屋の中へと戻る。

「あっ、王子様ぁ」

窓を閉めようとしたユウセイは、花売り娘の呼びかけに、渋々手を止めて「はい」と答えた。

「婚儀の最後にさあ、この舟の贈呈式をしたら、絶対婚儀が華やぐと思うの」

「は?」

「わたしがこいつを差し向けたら、ふたりして乗り込んでちょうだい。国中の人の前を、これに乗ってパレードするのよ。最高のアイデアじゃない。わたしって、やっぱ天才ね」

な、なんてことを言い出すのだ。冗談じゃない。

「ま、魔女様!」

思いとどまらせようと、窓から飛び出たが、すでに花売り娘は浴槽の舟に飛び乗っていた。

「よーっしゃ。もっともっと、派手に飾り立ててくるとするわ。楽しみにしててね」

その言葉とともに、浴槽の舟は空中をすっと飛んで行く。そして呼び止める間もなく、老人の乗る舟もそれに続いた。

数秒立たずに、ふたつの舟は米粒くらいの大きさになり、最後はパチンと弾けて消えたかのように見えなくなった。

「す、すごいですね。あんな凄いもの、くださるなんて」

驚いているマナミに、ユウセイは振り返った。

「マナ……」

「ユウセイさん、どうかしたんですか?」

きょとんとして聞かれ、ユウセイは疲れた笑みを浮かべて、首を横に振った。

婚儀のラスト、ふたりに降りかかる災難がどんなものか、マナミは理解できていないらしい。

まあ、マナミとふたりなら、それもいいか。と、仕方なく諦める。

ユウセイはくすくす笑いながら、身を屈め、祖母からの言いつけを破り、その唇にそっと唇を重ねたのだった。





End







あとがき
「シンデレラになれなくてふぁんたじぃだぞ」これにて終わりです。
ユウセイの誕生日を迎えるにあたって思いついたお話。
それぞれにぴったりの役どころがあり、書いていてとても楽しかったです。

無事、マナミを救い出せ、最後には、なんとあの舟を頂いてしまったユウセイ。この湯船の舟でパレードすることになっちゃいましたが、まあ、しあわせですよね♪笑

《素敵な贈り物……ですか?
「最悪の贈り物」とタイトルを変えていただけませんか。
                             byユウセイ》



ラストまで読んでくださってありがとう!!
楽しんでいただけたなら、嬉しいです♪

fuu(2012/3/18)

あっ、そういえば、蘭子を最後に登場させるのを忘れた……

「ちょっとどういうことよ?」

あっ、言ってる側から、き、きた!

紫色の服をまとった蘭子が、プンプン怒りながら近づいてくる。


怒ってる。怒ってるよ。ひ、ひょええ〜っ。

fuu、蘭子にむんずと腕を掴まれ、視線を合わせられずに瞳をさ迷わせる。

「『シンデレラになれなくて』の中で、重要キャラのこのわたしが、なんでチョイ役の占い師の役どころだけなのよ?」

「い、いや……そ、それが……あっ、でも、ほ、ほら、櫻井君なんて、出番なかったし……」

「えっ? あ、あら、そういえば、櫻井は出てなかったわね」

思い返してそう言った蘭子の顔に、優越感が浮ぶ。

(実のところ、櫻井はユウセイとサンジが乗っていた馬車の御者をしていたのだが……それをここでばらす必要はあるまい……)

「まあいいわ。次回は絶対に主役クラスで登場させないよ。いいわね」

「は、はい」

次回などありそうもないが……

それでも返事を聞いた蘭子は、機嫌を直してくれたようだった。

「それじゃ、わたし行くところが出来たから。これで、ごきげんよう」

「は、はい。ごきげんようです」

行くところとは、たぶん、櫻井のところだろうと思えた。

いそいそと去って行く蘭子を、fuuはほっとしつつ見送ったのだった。

おしまい





  
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