冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇119ティラ 〈父に相談〉

ああー、終わったぁ!

最後の品に札を貼り、それが消えたのを見て、ティラは大きく伸びをした。同じ作業を延々としていると、精神的に疲弊しちゃうな。

両親が手伝ってくれると思ったのに、忙しいと断られた。

確かに忙しいふたりだけどさぁ。少しくらい手伝ってくれてもいいと思うんだよね。

それでも母は、魔道具の札を必要な分だけ作ってくれたのだ。感謝してる。

さて、これはどうするかな?

受け取り手のない品がけっこう残った。父は残るものがあれば貰っておけばいいと言ってたけど……

これはなんなのかな?

小さな箱なのだが、仕掛け箱らしく開けられない。無理してこじ開けようとすれば、箱が壊れそうだ。これは父さんに見てもらうかな。

それと、これはなんだろう?

厚地の紙が巻いてあり、紐で括ってある。
紐をほどいてみたら、地図のようだった。

どこの地図かな? 染みがついてるし、こいつはかなり古いな。丁寧に扱わないと、ボロボロと破れてしまいそうだ。

で、こっちはなんだ?

手で持てるくらいの瓶だ。コルク栓で蓋がしてある。表面はつるつるしてるけど、瓶は曇っていて中身はよくわからない。

こういうものは不用意に開けるべきではないから、これも父さんかな。

あとまだいくつかあって、魔道具なのはわかるがどういったものなのかはわからない。

あれっ、カギがある。こんなのあったっけ?

「ずいぶんと古びたカギだねぇ。けど、これも魔道具っぽいな」

用途不明の魔道具とカギはひとまとめにして袋に入れ、ポーチに放り込んでおく。

仕掛け箱と巻いてある紙と瓶は手に持ち、ティラは父のところに向かった。


「ふむ」

仕掛け箱を手に持ち、父はじっと見る。

「開け方がわかる?」

「これは必要な時に開くのさ」

「必要な時っていつ?」

「それは必要な時が来た時だな」

「はあっ?」

「お前が持っているといい。で、これはなんだ?」

今度は巻いた紙を開いてみる。

「ふむふむ」

「宝の地図だったりしない?」

そうならいいなという思いを込めて、ワクワクして尋ねる。

「ふーむ。これもお前が持っているといい」

「父さん、この地図がどこの地図かわかったんじゃないの?」

「さあ、どうだろうねぇ」

父は含み笑いをするばかりで、教えてくれない。

絶対、なんの地図かわかったんだ。

「教えてくれればいいのに」

「で、その瓶は強烈な呪いが封印付きでかかっているな」

「だよね。そんな感じ。開けない方がいいよね。これは父さんに預けるね」

「いや、それもお前が持っていけ」

「ええーっ、呪いの瓶なんて持ち歩くの嫌なんですけど」

「お前は、いっぱしの冒険者なんだろう?」

「なかなかランク上がらないけどね」

そう言ったら、父は眉をくいっと上げる。

「ランクなんてもの気にするのか? 気にするべきは冒険者の質ではないのか?」

「だって、ランクが上がらないと依頼に制限がかかるんだもの」

「キルナくんやゴーラドくんの受けた依頼を一緒にやれてるじゃないか。問題ないようだが?」

それはそうだけど……

「ソーンさんに負けたくないの。すでに追い越されちゃったし」

「ふむ。ソーンくんは、そんな勝ち負けを気にしてるのか?」

い、痛いところを強烈に突かれましたぁ。

ティラはため息をついた。

「してない。ちょっと反省した」

「そうか」

父と話したら、気持ちがすっきりした。

そうだよね。ランクなんて気にするのはやめよ。

「父さん、見てくれて、ありがとう」

持ち込んだ三つの品をポーチにしまったティラは、父に礼を言って背を向けた。

「ティラ」

「うん?」

「その瓶、精霊が入っているぞ。たぶん妖魔の仕業だ」

「ええっ? なら、出してあげなきゃ」

「ここでは無理だ。呪いと封印の解除に失敗すると精霊は消滅してしまう」

「父さんなら、救えるんでしょう?」

「まあな。だが、お前がやってみろ」

「できると思う?」

「思ってなきゃ、やれとは言わないな」

その通りか。

「いまのティラは、頼りになる仲間もいる。どうしても無理だったら父さんのところにもう一度持ってこい」

「わかった。頑張ってみる」

「慌てる必要はないからな。精霊は眠っているし、苦しんでいるわけじゃない」

それを聞けてほっとした。そうでなければ、父はティラに頼むことはしなかっただろう。

「それと、トッピ、そろそろ出してやれよ」

あっ、そうだった。忙しかったんで、すっかり忘れてた。

「父さん、トッピが魔核石の壁を食べて、巨大な卵を産んだんだけど」

「見せてくれ」

卵をポーチから出す。

さすがの父も、このでかいのには驚くと思っていたのに、そうでもなかった。

「なんだ、質はイマイチだな」

「役に立たない?」

「父さんはいらないな」

そっか……そうだ、キルナさん達に見せるっていったのに忘れてたな。

「キルナさんとゴーラドさんも見たがってたから、もう一度持ってくわ」

「ゴーラドくんに貸している槍で突いて吸収しろ。始末するのに手っ取り早いぞ」

ほほぉ、いい情報をいただけたな。

「わかった」

巨大な卵をポーチに戻し、ティラは自室に引き上げることにした。すると、途中で母に呼び止められた。

「ティラ、これ明日持っていきなさい。聖緑花の種よ。あなたが今日伐採した空き地に、これを蒔いてあげなさい」

「わあっ。ありがとう」

聖緑花は、害虫除けの花なのだ。この花が咲いていれば、もうキーピルが巣を作る心配はなくなる。

「さあ、そろそろ寝なさいよ。明日の朝は、種まきもあるし、少し早く出発した方がいいわね。歯磨き忘れずにね」

「はーい。お休みぃ」

聖緑花は、明け方に撒くのが基本だもんね。

受け取った種を手に、ティラは自室に戻ると、しっかり歯磨きをして、お日様の匂いのするふかふかの布団に潜り込んだ。

目を閉じたティラは、キルナさん、ゴーラドさん、ソーンさんがいい夢を見ていますようにと祈りながら、眠りに落ちたのだった。





つづく



 
   
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