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12 ゴーラド 〈首を捻る〉
町の外れまでやってきた時だった。物凄い速度で何かがこちらに向かってくる。
「ありゃ、なんだ?」
前を歩いていた男たちが口々に叫んだと思うと、「「「わわわっ!」」」と驚き喚き、たたらを踏んで全員ひっくり返った。
目をぱちくりさせていたら、ゴーラドの目の前に先ほどの娘、ティラが立っていた。
こりゃどうしたことだ?
「ごめんなさい」
ひっくり返った男たちに、ティラが謝罪する。
みんな面食らった顔で、かなり動揺してしまっているようだ。誰も即座には立ち上がらない。
いや、立ち上がれないのか?
「お、おい、あんた」
ゴーラドは背を向けているティラに声をかけた。振り返ったティラは、ゴーラドの顔を覚えていたようだ。
「あっ、さっきの」
「なあ、いまのは?」
「いまのって?」
小首を傾げて聞き返される。
「だから、いまの……あいつらを全員転がしたのはあんただよな?」
「転がしてなんて……ぶつかったりはしなかったはずで……でも、わたしのせいなの? ど、どうしよう?」
自問自答し、ティラは急に慌てだす。
「いや、あんたのせいとか、考えなくてもいいと思うぞ」
鍛えぬいた体躯の冒険者たちだ。こんな娘っ子ひとりに転がされたなんて、恥ずかしくてとても口にできまい。
「そ、そうですか? なら、もう行ってもいいんでしょうか?」
「ああ」
ゴーラドの返事を聞き、ほっとしたらしい。
ぺこりと頭を下げて去ろうとするが、採取地とは逆方向に向かおうとする。
「方向が違うぞ」
「えっ? でも、ギルドはこっちですよね?」
「採取に行くんだろう? ああ、もうギブアップするのか?」
「いえ、採取ならもう終えました」
「へ?」
そんなわけあるか! いま向かったばかりだろうがあ?
「ラッサ草、三十本。これって、痺れを緩和するんですよね」
確かにラッサ草だ。とても綺麗に束ねられている。
「おい、いまのはなんだったんだ?」
ようやく立ち上がった男どもが騒ぎ始めた。
こりゃ、まずいな。
「あんた、終わったってんなら、さっさとギルドに戻りな」
ゴーラドはティラを急かす。
「いいんでしょうか?」
「いいんだ。ほら、いいから行け」
先ほどの現象をもう一度確認したかった。もちろん、本当に採取を終えたのか、ゴーラドもすぐにティラの後を追うつもりだ。
「それなら……」
頭を下げ、ティラは駆けだした。
あの走り、速いは速いが普通だな? なら、さっきのは、いったいなんだったんだ?
首を捻りつつ、ゴーラドはティラの後を追ってギルドに向かった。
◇◇◇
「た、確かに、合格です」
受付が試練の判定を伝えているところに、ちょうどゴーラドも居合わせられた。走り続けて戻ったので、かなり息が切れている。
ほんの少しの差で、先にギルドに向かったティラは、なんと息切れ一つしていない。
なんなんだ、あの娘っ子は?
見たとこ普通の娘としか思えないのに……実は、まったく普通ではないってことか?
「あの娘、絶対魔道具を使ったんだぜ」
「ああ、俺もそう思った」
男たちが、苛立ったように口にしている。
魔道具か。高価すぎるし、あんな娘がそんなものを持っているというのは信じがたいんだが、そう考えるのが一番納得できるんだよな。
もちろん、魔道具は禁止されているものではないので、それを使って試練を成功させたとしてもなんの問題もない。
まあ、そうか。魔道具を使っていたというわけか。
だが、賭けは賭け。
そんなわけで、娘は無事冒険者の仲間入りを果たし、キルナには大量の大銀貨が手渡されることとなったのだった。
つづく
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