冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇15 ティラ 〈+5になりました〉


「まああっ、美味しいわ」

魔鼠のあぶり焼きを、かなり恐る恐る口に入れたものの、女の人は咀嚼した後、驚きとともに叫んだ。

だよねぇ。

「ほんとに?」

別の女の人が、不安な顔をしつつも、えいっとばかりにあぶり焼きを口に頬張る。

そして……

「お、美味しい! な、なんなのこの香ばしくて……ああ、この味を表現する言葉がでてこないわ」

そのあと女の人たちは全員順番に口にしていき、みんな感激の声を上げた。

しかし、男の人たちはまだ誰ひとりとして口にしていない。眉をひそめたままだ。

「よ、よし。わしにもくれ」

意を決したように村長が前に出てきた。

そんな村長を見てくすくす笑いながら、すでに試食を終えた女の人が村長にあぶり焼きを手渡す。

村長さんはかなり長いこと思案していたが、ついに口に入れた。

そして、お決まりの「うまいっ!」の言葉をもらう。

それでようやく、男の人たちも食べ始めた。

そんなわけで最終的に、魔鼠の試食は大盛況のうちに無事終了となった。

あぶり焼きだけでなく、汁物とか炒め物とか色々作ったんだけど、全部完食。

魔鼠退治の薬も十分な量を分けてあげた。

あの食糧庫の魔鼠は退治してしまったけど、この村にはまだまだいっぱいいる。
気を付けてさえいれば、繁殖力は強いし、食い尽くすことはないだろうと思う。

依頼達成の銀貨五枚は辞退しようとしたのだが、どうしても受け取ってほしいと言われて、結局もらってしまった。なので、買い取らせてもらった魔鼠の代金に、ちょこっと色を付けさせてもらった。


◇◇◇

「そのポーチは、どれだけ入るんだ?」

そんな問いかけをもらい、ティラは横を歩いているキルナを見上げた。

「かなり入りますよ」

「かなりとはどのくらいだ?」

「うーん、どのくらいと言われても……」

「つまり、限界まで入れたことがないのだな?」

「はい」

「私のこれも、魔道具なんだが」

キルナは自分の腰に下げた黒いウエストポーチを見せて言う。

なんだこの人も持ってるんだ。

「たが、そんなに容量はでかくない。自分の身の回りのものを入れたらパンパンだ」

「そうなんですか」

「高いからな。このサイズを手に入れるのが精一杯だった。それにあまり出回らない希少品だからな」

そこまで語ったキルナは、ティラのポーチを見つめて笑みを浮かべた。

「そんな魔道具を、どうしてお前のような娘が持っているのか、気になるんだが」

ああ、キルナさん、それを知りたかったんだな。

それにしても、この類の魔道具が、あまり出回らない希少品だとは知らなかった。

お使いをするので、母がこの服と一緒に、新しいのを揃えてくれたんです。なんて本当のことを言ったりしたら、キルナさんはどう思うだろう?

ここはうやむやに話を逸らした方がよさそうだ。

「あのお、魔道具の袋がそんなに出回っていないのなら、冒険者の人たち、狩った魔獣をどうやって運ぶんですか?」

「申請すれば、ギルドで貸し出してくれるんだ」

「ギルドには貸し出せるほどあるんですか? 希少品なのに?」

「ああ」

「でもそれだと、自分のものにしちゃう人が出てきたりするんじゃないですか?」

「それはない。ギルドを敵に回す冒険者はいない。冒険者一転、犯罪者に認定されて、今度はギルドと冒険者に追われる身だ。そんな愚かな真似をする輩はいないさ」

話に聞くと納得だ。


それからギルドに行き、村長さんから受け取った依頼達成の証明書を提出する。

受付は書面に目を通し、「ご苦労様でした」とねぎらい、さらに「魔鼠退治の成果を評価して、ティラさんのランクはFランク+5となります」と告げられた。思わず目を見開く。

「+5ですか?」

「はい。魔鼠は厄介な小魔獣です。それをソロで依頼達成できたのですから、高く評価されます」

うわーっ。

ティラは喜び勇んで、ギルドの休憩室で飲み物を飲んでいるキルナのところに戻った。

「キルナさん、やりましたよ。もう+5になれちゃいました」

大喜びで報告したら、頷きながら頭を撫でてくれた。

まだまだ駆け出しで上は遠いけど、それがまた頑張りの糧になるのだ。





つづく



 
   
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