冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇16 ティラ 〈パーティーのお誘い〉


「さて、そろそろ昼だし、私はこれから食堂に昼飯を食べに行くつもりだが、お前はどうする?」

「わたしはお弁当持ってるので……でも、外で食べちゃダメなんでしたっけ? どこで食べたらいいですか?」

「冒険者用の休憩所がある。そこならテーブルと椅子があるから……」

「へーっ、そんな施設があるんですか? なら、そこに行ってみます。場所はどっちですか?」

キルナに道順を聞き、ティラはキルナと別れて駆けだした。

魔鼠を食べたけど、ほんのちょっぴりだったから、お腹ペコペコだ。

冒険者用の休憩所はすぐに見つかった。
中に入ると、冒険者がけっこういて調理したりご飯を食べたりしている。

へーっ、調理場まであるんだね。

しかし、いい匂いが充満してて、ますますお腹が減ってくる。

ジュージューといい音を立てて肉を焼いているグループがいた。ちらりと窺うと、狩ってきたらしい魔獣を調理しているようだ。

わあっ、その魔兎の肉、美味しいんだよねぇ。手ごろな大きさで、昼食にはちょうどよさそう。

狩ってきて、ここで解体して、調理して食べられるとか。いいねぇ。

設備が整っているから、ちょっとした大物でも解体できそうだ。

これがすべて無料で使えるとか、冒険者って恵まれてるなぁ。

ティラは空いているテーブルに座り、お弁当を食べ始めた。

美味しくいただいていたら、ぽんと肩を叩かれた。

「よお。あんた、こんなところでひとりで昼飯か」

「あっ、どうも」

この人は、ギルドで会った人のよさそうな冒険者さんだ。

「ここ、座ってもいいか?」

「どうぞ」

「ありがとよ。俺はゴーラドってんだ」

「ゴーラドさんですか。わたしはティラです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしくなティラちゃん。ところでキルナさんは一緒じゃないのか?」

「キルナさんは、食堂でご飯食べてます」

「ふーん、ティラちゃんは弁当か? ずいぶんと珍しいな」

やっぱ、珍しいのか。
……こりゃ、母が持たせてくれたんです。とは言いづらいなぁ。

冒険者になったのに、家からの通いってのも、やっぱ珍しいんだろうからなぁ。

「羨ましいな」

「えっ? 羨ましいですか?」

「そりゃあな。弁当なんて、ガキの頃でも作ってもらったことないしな」

「そうなんですか?」

「まあ、それはいいや。で、もう依頼は受けたのか?」

「はい。魔鼠退治をやってきました。そしたら、もう+5になれたんですよ。ソロで達成したから高評価もらえたんです」

「へーっ、凄いじゃないか。それにしても、意外だなぁ」

「意外ですか?」

「あんたなら、もっとすっげえ依頼をしょっぱなからこなすんじゃないかと思ったのさ」

「すっげえ依頼なんて、Fランクの掲示板にはないと思うんですけど」

「Fランクにはないだろうが、キルナさんが受けた依頼に、ティラちゃんも同行できるからな」

ああ、そうなんだ。

「キルナさんと組むんじゃないのか?」

キルナさんと組む?

「いえ、それはないと思います」

キルナさん、Fランクの依頼なんてつまらないだろうし、キルナさんの依頼に同行させてくれなんて、さすがに無遠慮で言えないよ。

まあ、魔鼠退治には着いてきてくれたけど。

「なら、俺と組むか?」

「えっ? ゴーラドさんとですか?」

「ああ、こう見えて、俺はAランクなんだ。危険は回避してやれる」

へーっ、Aランクの人かぁ。

「大先輩だったんですね」

「まあな。けど俺、そんなに歳じゃないからな。こう見えても、まだ二十三だ」

わたしより、八個上かぁ。

「ひとりで心細いと思ったら、いつでも声をかけてくれ。じゃあな」

ゴーラドはさっと立ち上がり、颯爽と去って行った。

どうやらティラのことをかなり心配してくれているようだ。

うーん、パーティーを組むのかぁ。それも楽しそうかもね。

あっ、でもダメだぁ。弁当持ちの通いだってこと、絶対バレちゃうもん。

仕方がない。今度会ったら、お断りしよう。





つづく



 
   
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