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◇18ゴーラド 〈猛毒の母、聖母認定〉
なんかすっげぇ怖いんだよなぁ、キルナさん。
目の敵にされてるように思うのは、俺の勘違いなのか?
しかし、なんでこんなことになったんだ?
いま、ゴーラドは、ティラとキルナと同行し、依頼達成のため、トードルの巣を目指している。
依頼報酬は、卵一つにつき、金貨一枚。かなり割がいい。
三人で組んだから、三等分ということになるが、一日の報酬としては十分だ。
まあ、卵があればの話なんだが。
それにしても、その見た目と違ってティラちゃんは体力あるよな。
かなり山を上ってきたが、やはり息を切らせていない。もちろん、キルナさんは言わずもがな。
この人は俺よりそうとう腕が立つ。希少なSSランクの冒険者なのだから当たり前だが。
しかし、ちょっと疲れてきたな。男の俺がへばるわけにはいかないってのに。
かなりの速度で上り続けているのだ。この女ふたり、異常だと思う。
「ゴーラド、大丈夫か? お前、息が上がっているぞ」
キルナに指摘され、ゴーラドは顔をしかめた。
「ふたりとも、体力ありすぎだろ?」
「あれっ、ゴーラドさん、疲れちゃったんですか?」
「あ……いや……その……」
ティラの言葉に、いっぱし以上の男だと自負しているゴーラドとしては、頷くことも否定もできず、もごもご言ってしまい、なんとも情けなくなる。
こんなことなら、誘わなきゃよかったぜ。
「ゴーラドさん、よかったらこれどうぞ」
ティラが小瓶を差し出してきた。
「それって?」
「疲れが取れますよ」
そうなのか?
まあ、ティラちゃんが言うなら、間違いなさそうだ。
「もらっていいのか?」
「仲間なんです。当たり前ですよ。同じパーティーのメンバーは助け合うものなんでしょう?」
確かにそうだが。
「それじゃ、遠慮なく。ありがとな」
どれほどの効き目があるかはわからないが……気持ちが嬉しいじゃないか。
小瓶のふたを開け、ぐいっと飲み込む。
おお、うまいなこれ。
「ああ、そんなに飲んじゃ……、ちょっとでいいんですよ。ちょっとで」
そうだったのか? だが、もう瓶の半分ほど飲んでしまった。
「うっ!」
な、なんだ!
身体に起こった変化に、足を止めてしまう。
「わわわわわわ」
「ど、どうしたんだゴーラド?」
キルナが珍しく慌てた様子で聞いてくる。
だが、「わわわわ」としか言えない。とにかく身体が一気に沸騰したのだ。
全身が燃えるように熱い。
「もう、飲みすぎるからぁ」
ティラが背中に手を置いてくれたら、そこから熱が吸い取られるかのように、すーっと引いて行った。
「ああ、もう大丈夫だ。すまんな、心配かけて」
ふたりに謝罪し、一息つく。
あれっ?
「おおっ、なんだこれ、体がすっげぇ軽いぜ。これってその薬の効果なんだな、ティラちゃん?」
「母によれば、とっておきの回復薬なんだそうです」
とっておきだったのか……
これだけ効き目があるなら、こりゃ、そうとう高いんじゃないのか?
「使ってよかったのか?」
「もちろんですよ。なかなか使う機会がなかったから、ゴーラドさんの役に立ったと聞いたら、母も喜びますよ」
そんなもんなのか?
しかし、ティラちゃんの母親か……きっと、聖母のようにやさしい母親なんだろうな。
娘の朝食に猛毒を仕込む母なわけだが、そんなことをゴーラドが知る由もなく……まあ、知らぬが仏というやつなのである。
つづく
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