冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇19キルナ 〈まともな意見いただきました〉


なんだ、回復してしまったのか?……つまらない。

先ほどまで息を切らせていたゴーラドだったのに、いまは軽快に坂道を上り続けている。

あのままいけば、途中で置き去りにできるぞと喜んでいたのに……

「おっ、もうそろそろだぞ」

ゴーラドの言葉通り、坂道が終わり大きく開けた場所に出た。

すぐ先はもう崖っぷちだ。
でっかい窪地になっているそこには滝があり、水が盛大に落下している。

「わーっ、素敵な景色ですね。あっ、トードルが飛んでる」

ティラの言うとおり、茶色の巨鳥が大きな翼を広げて飛んでいた。

「ゴーラド、巣はどこだ?」

トードルは崖の途中に巣を作る。場所によっては辿り着くのが大変だったりする。

「あそこだ。あの岩が三つほど突き出てる少し上のあたりだ」

ゴーラドが指さす方を見ると、確かに巣がある。

トードルは群れたりしないため、巣はそれひとつきりだ。

「卵ありますかね?」

ティラが巣を窺いながら言う。

まだ巣の場所は遠く、もちろんここからでは卵の確認はできない。

「まずはトードルを追っ払わないとな」

そう言ったら、ゴーラドが派手に驚く。

「キルナさん、そんなことできるのか?」

「できるさ。トードルを討伐せずにおけば、また卵を取りにこれるからな」

「それはそうだが……でも、どうやって追い払うんだ? 策はあるのか?」

「大声を出せばいいのさ。そうすれば向こうからやってくる」

「はあっ、大声だ?」

呆れを滲ませてゴーラドが言うので、ちょっとムカついた。

私の策を愚弄するとは……トードルの前にこいつを痛い目に遭わせてやろうか。

「近づいたところをちょっと痛い目に合わせてやれば、逃げていくさ」

「だが、俺の武器は槍だしあんたは剣だろう。空を飛ぶ鳥が相手では、分が悪いぞ。それとも、あんたは魔法が使えるのか?」

使えないというと嘘になる。実際使える。だがいまは封印中だ。

そんな個人的なことをこいつに説明する義理はないので、キルナは肩をすくめることで答えとした。

ゴーラドの反応を見るに、私に魔法は使えないと判断したようだ。

「なあ、キルナさん。追っ払うより、あいつが餌を探しに行った隙に卵を盗むのがいいんじゃないか?」

ゴーラドは最初からその作戦でいくつもりだったようだ。

「いなくなるまでじーっと待つというのか? まどろっこしい」

嫌気がさして言ったら、ゴーラドの雰囲気が変わった。彼はきりりっと表情を引き締め、おもむろに口を開く。

「キルナさん、あんたの方が俺より腕が立つのはわかっちゃいる。が、いまは俺がリーダーだ。今日のところは俺に従ってもらう」

そうでたか。確かにいまはゴーラドがリーダーだ。従わないのであれば、このパーティーから離脱することになる。

だからパーティーを組むというのは面倒なんだ! ソロが気楽でいい。

キルナは睨むようにゴーラドを見つめ、それからティラに向いた。

ティラはゴーラドとキルナの言い合いを、なんでか楽しそうに聞いていたようだった。
「いいですねぇ」

にこにことティラが言う。

「何が?」

「作戦を立てて意見を出し合って、揉めちゃったりとか。わたし、これまでこういう経験なかったので、なんか楽しくって」

そんなものか?

「それで、ティラはどうするのがいいと思うんだ?」

改めて尋ねたら、ティラは目を見開く。

「し、新米の、わたしの意見も聞いてくださるんですか?」

感激といった風に叫ぶ。やはりティラは可愛いな。

「もちろんだ。仲間だからな。それでティラは、私とゴーラド、どっちの意見がいいと思う?」

「わたしですか……そうですねぇ。まずは巣の近くまで行くのがいいと思います。追っ払うにしても、いなくなるまで待つにしても、卵を手に入れるためには近くまで行かないことにはお話にならないと思うので」

確かにその通りだ。

ティラのあまりにまともな意見に、キルナはゴーラドと目を合わせ、そして同時に吹き出したのだった。





つづく



 
   
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