冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇21 ゴーラド <魔道具入手>


さて、トードルの卵が三個手に入ったのは、最高の結果なのだが……

「すまない。失敗した」

ゴーラドは、頭をかきながらティラとキルナに頭を下げた。

「失敗とは、どういうことだ?」

キルナが眉を寄せて尋ねてくる。

「魔道具の袋を申請し忘れたんだ。手に抱えて帰ることになる」

トードルの卵は想像していたよりでかかった。荷物袋には収まらないし、かといってこのまま抱えたのでは表面がつるつるしているから、取り落としてしまいそうだ。割れてしまっては報酬をもらえなくなる。

「ゴーラドさんは、魔道具の袋は持っていないんですか?」

「ティラちゃん、この俺があんな馬鹿高いもの、持ってると思うか?」

「なら、わたしのポーチに預かってもいいですけど……あ、そうだ! お古でよければあげますよ」

「お古があるのか?」

物凄い勢いで、キルナが前に出てきた。

ゴーラドは危うく地面に転がるところだった。

「お、おい、キルナさん?」

「私にもくれ」

「いいですけど……ゴーラドさんは?」

ティラがゴーラドに問うように聞くと、キルナは「お古はひとつじゃないのか?」と聞き返す。

「はい。いくつかあります。愛着があったので、捨てるのもなと思って、置いといたんです」

「捨てる? 魔道具を捨てるなんてありえないぞ」

「でも、一つあれば十分ですよ」

「なら、私が大事に使ってやるとしよう」

キルナは横柄に言って手を出す。

もらう者の態度ではないと思うが……

いや、そんなことではなく……

「魔道具をもらえるのか?」

魔道具はどんなものであれ、とんでもなく高価なのに……

ティラはポーチの中に手を差し込み、ひょいと何かを取り出した。

「はい、これですけど」

ティラから受け取ったものをキルナはまじまじと見る。

真っ赤なポーチには、水玉模様のでっかいりぼんがくっついている。

「さすが、お前のお古だな」

感慨深げに口にしたキルナは、それでも嬉しそうにしている。だが、キルナにはあまりに不似合いだ。

まさか、それを本気で腰に下げるつもりか?

黒装備の女冒険者の威厳が大幅に損なわれると思うのだが……

「ゴーラドさんはいらないんですか?」

「いや……俺は……」

魔道具は欲しいが……さすがにそんな可愛いデザインではな。

「ティラ、これはどれくらい物が入るんだ?」

ポーチに腕を突っ込み、キルナが聞く。

「そうですねぇ。それはちょっと容量が小さいので」

「この卵なら、何個くらい入る?」

「それですか……うーん、はっきりとはわかんないですね。けど、大型魔獣五十体は余裕で入ると思いますよ」

は? ティラちゃん、いまなんてった? 大型魔獣五十体だ?

「ほお。予想をはるかにぶっとんだな。つまり、これがあれば、いちいち申請してギルドから借りる必要はなくなるわけだ」

「小分け袋もいくつかあげますよ。まとめて取り出しやすいですから」

ティラはさらに巾着型の袋を数枚キルナに手渡す。容量は格段に小さいものの、これも魔道具だ。

「五十体入るってのか? そのちっこいやつに、本当にか?」

ゴーラドは黙っていられず、ふたりの間に割って入った。

「なんだ、やっぱりお前も欲しいのか? だが、ティラのお古だ。たぶん他のもこんなだぞ」

キルナは真っ赤なりぼんのついたポーチを、意地悪そうに見せる。

そうかもしれないが……大型魔獣が五十体も入れられる魔道具……便利すぎる。

「もらえるのであれば、俺も欲しい」

そうは言ったが、ティラがポーチに手を入れるのを見て、ごくりと唾を飲み込んでしまう。

いったいどんなポーチが……

ティラが取り出したのは、まんまるで黄色く、緑のヘタのような飾りがついたものだった。

「ずいぶんと可愛いデザインじゃないか、ゴーラド良かったな」

そのからかいに、どんな反応をすればいいのかわからない。

「それと、ゴーラドさんにも小分けの袋、はい」

まんまるポーチと小分け袋を数枚受け取ってしまった。

「それじゃ、卵は三つともゴーラドに預けよう。リーダーだからな」

「了解です。それじゃ、ゴーラドさんお願いします」

ふたりの卵も預かり、まとめて小分けの巾着に入れ、まんまるなポーチに入れた。

手にぶら下げ、なんとも言えない気分になる。

「さあ、ゴーラド、さっさとポーチを腰に下げろ。町に戻るとしよう」

キルナが急かしてくる。

マジでこいつを、腰に下げなきゃならないのか?

渋々言われた通りにしようとしてハタと気づく。ゴーラドの腰にはすでに貴重品を入れたバッグが下がっているのだ。

「これに入れればいいんじゃないか?」

「なんだ気づいたのか、つまらないな」

ゴーラドはむっとしてキルナを睨んだ。

「そのバッグの中身も、ポーチに入れてしまうといいですよ。荷が軽くなります」

いささか意地悪なところのあるキルナと違い、ティラはどこまでも親切だ。

ありがたくティラの助言通りにする。

そこでキルナを見ると、真っ赤なポーチを腰に下げてはいなかった。しっかり自分のバッグにしまい込んだらしい。

まったく、キルナさんは……

苦笑してしまう。

それにしても、こんなに魔道具を持っているとは……

ティラは、まったく不思議な娘だ。





つづく



 
   
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