冒険者ですが日帰りではっちゃけます



75ティラ 〈先のお楽しみ〉


ふっふっふ、ふーっふっふっふ。

ついにやった! これで誰に邪魔されることなく、大剣を手にできる!

釣りスキルを上げててよかったよぉ。
まあ、釣り初心者だったらしいおふたりだから、なんかちょっと罪悪感が心に滲むけども。

それでも、おふたりとも納得した上での勝負だったんだから、いいよね? と、ティラは自分を納得させる。

さて、休憩しているいま、話を聞かなきゃね。

パロムを出てからは、それはもう走るような速度で進んできた。話しなどする余裕はなく、ひたすら町から遠ざかったのだ。

ティラのお腹は極限までペコペコで、お昼の準備をするのもひーこら状態だった。

ようやく満腹になったところで釣り大会となってしまったから、まだ謎は謎のまま。

「それで、なんでパロムの町をこそこそ出てきたんですか? 何か町でまずいことでもあったんですか?」

ティラは釣った魚を捌きながら尋ねる。

下ごしらえしておけば、次に調理する時、時間短縮になるからね。

「町の英雄に担ぎ上げられそうだったからだ」

「ふむ。魔牙狼を討伐したんですから、それはそうなりますよね。けど、悪いことじゃないし……」

「あの様子では、数日は町から出してもらえなかったと思うぞ」

「なんでですか?」

「英雄をもてなすためだ。町民も納得しないだろうからな」

町から出してもらえない可能性があるから、そそくさと出てきたわけか?

「納得していない顔だな?」

キルナに指摘され、ティラは頷いた。

だって、英雄を無理やり引き止めるとかって、よくわかんない。

「町を挙げての宴会に強制参加させられるとか、正直二度と関わりたくない」

「それって、身を持って体験したってことですね?」

「ああ」

そうか。キルナさんは今回みたいな英雄的なことを経験済みなんだ。で、過度なもてなしを受けてこりごりになった……と。

「ゴーラドさんは?」

「俺は、そんな体験はしてないぞ。けど、昨日の夜、あちこち引きずり回されて、正直すっげぇ疲れた」

「ええっ、あれから引きずり回されたんですか? なんでですか? 英雄なのに!」

「ティラ、お前、どんなことを想像している?」

「だから引きずり回されて……」

キルナから呆れ顔でこつんと頭を小突かれた。

すると、苦笑して見ていたゴーラドが説明してくれる。

「警備団の詰め所で質問攻め、それから冒険者ギルド、最後は町長と面会だ。いい加減、疲れてるし早く解放してくれって思ったぞ」

「ありゃりゃ、そうだったんですね」

その調子でこられたら、もう勘弁してくれってなるな。

「今回の討伐の報酬は、よそのギルドでも受け取れるんだから、長居は無用だ」

「そうなんですか? それで、今回の報酬ってどれくらいなんですか?」

「さあな。魔牙狼の討伐報酬は、かなりいいはずだ。それが百匹ほどだからな」

「けど、俺たちがやったのは三十匹くらいなんだ。残りは……謎の勇者なわけだし……な?」

ゴーラドは言葉の最後にティラを意味ありげに見てくる。

「わ、わたしは関係ないですよ」

「報酬はいらないのか? お前、大剣を買うつもりなんだろう? 金は欲しいんじゃないのか?」

キルナが意地悪な眼差しで聞いてくる。

「大剣を買うくらいはちゃんとありますよ」

自信満々で答える。

にっしっし。お財布の中にはそこそこお金があるもんねぇ。

ピール草の採取報酬でしょ。それからドラブ草の採取報酬と魔蜥蜴討伐の報酬も、ちゃんと三等分して貰ったし、魔蜥蜴の魔核石ももらったから、こっちも換金すればけっこういい値段で売れるはず。

さらには魔蛇と魔大蛇のぶんもある。
金貨三十枚くらいは大剣に使えるよね。あと、防具もキルナさんのみたいなのがいいなぁ。

「キルナさん、漆黒の装備はどれくらいしたんですか?」

「あの装備はトータルで白金貨五枚はしたな」

ティラの顔から一瞬にして笑みが消えた。

「そ、そんなにするのか?」

ゴーラドも唖然として言う。

「魔黒竜の鱗を使ってあるからな。ゴーラドも魔黒竜とまではいかなくとも、竜の鱗で作ってもらうといいぞ。丈夫だからメンテナンスもそう必要ないし、半永久的に使える」

「ははは」

ゴーラドは笑い声をあげるが、その目は笑っていない。

「ゴーラドさん、大丈夫ですかぁ?」

ゆさゆさ揺すってみると、正気に戻れたようで、疲れを帯びた息を吐く。

「心配するな、普通の竜なら金貨三十枚もあればそこそこのものが手に入る」

防具に金貨三十枚かぁ。それだといまのわたしには無理だな。とにかく大剣を手に入れなきゃ!

「普通の竜ってどんな竜なんだ? 竜ってのは小型のやつもいるのか?」

「小型もいるが、それではダメだ。最低でも緑竜だな」

「緑竜? 俺にとっちゃ、竜ってのはお伽話な存在なんだが」

「お伽話?」

キルナが噴き出す。

「ガラシア国には緑竜はごろごろいるぞ」

「さすがにごろごろは言いすぎだろ、キルナさん」

「何言ってる。いまガラシアは緑竜が増えすぎて困っているんだ。上級冒険者パーティーやら騎士団やらで必死に数を減らしているところだぞ」

「へーっ、それじゃ、その討伐にキルナさんも参加したんですか?」

そう聞いたらキルナの顔が苦くなる。

「キルナさん?」

「ソロは受けさせてくれないんだ」

「ということは、キルナさんも緑竜と戦ったことはないんですか?」

「いや、あるさ」

「でも依頼を受けられないんじゃ?」

「依頼を受けずとも、遭遇したらやるしかないだろ。もちろん、緑竜を狩ればソロであっても報酬はもらえる。だがな、数か月前から緑竜がさらに増えたこともあって出没する地域は危険地帯に指定された。いまは許可なき者は入れてもらえないんだ」

「そういうことですか」

「ちょ、ちょっといいかな?」

それまで黙って話を聞いていたゴーラドが、遠慮がちにキルナに話しかけた。

「なんだ、ゴーラド?」

「まさかと思うが……キルナさん、その危険地帯の緑竜退治にいくつもりか?」

「もちろんだ。パーティーを組んだのだから、大手を振って依頼を受けられる」

キルナは物凄く嬉しそうだが……ゴーラドの方はどんどん青くなっている。

「む、無理だって! 俺じゃあ無理だ!」

首を必死に左右に振るゴーラドの反応を、もとから予想していたのかキルナは彼の肩をトントンと叩く。

「心配するな。お前は同行するだけでいいんだ。緑竜は私が殺る」

「ひとりでやれる……ああ、確かにキルナさんならやれるのか」

疲れ顔だが、ゴーラドは納得したように呟く。

キルナさんなら、たいして苦労もせずに緑竜を狩ってしまえるんだろうな。

ティラの頭の中で、軽く剣を振り、勇ましく竜を退治するキルナが浮かぶ。

「キルナさん、倒した竜って自分のものにできるんですか?」

「むろんそうだ。竜はいい稼ぎになるぞ。討伐報酬とは別に金になる。緑竜とはいえ、鱗は高値で売れるし、肉も旨いからな。魔核石までも手に入る」

「ウハウハですね」

「ああ、ウハウハだぞ」

緑竜のお肉は食べた記憶はないけど、竜の肉って総じて美味しいって言うよね。

「竜の肉って旨いのか? どんな味なんだろうな?」

討伐については腰が引けているようだが、ゴーラドも竜の肉には興味があるようだ。

「緑竜退治、楽しみです」

わたしも大剣を手に入れたら竜退治だぁ!





つづく



 
   
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