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第2話 心惹かれる情報
仕事が終わり、苺は爽の車の助手席に乗り込んだ。
「はふーっ、寒いですねぇ。けど、今朝積もった雪は、すっかり消えちゃいましたね」
「冷え込んでいても、まだ十二月になったばかりですからね」
爽はそう言って、車を発進させた。
今夜は鈴木家でご飯を食べることになっている。
可愛い甥っ子のまこちゃんに会えるのが、実家に帰る楽しみだ。それは爽も同じみたい。
爽は、早く自分の子どもが欲しいって思ってるのかな?
そんな風に考え、ちょっと頬が赤らむ。
ふたりの赤ちゃんか。なんか照れるぅ。
鈴木家に到着し、玄関でくんくんと匂いを嗅いだ苺は、「おでんだ」と叫んだ。
迎えに出てくれた母が、「あたりよ」と普通に返してくる。
「おでんですか。いい匂いですね」
爽も匂いを嗅ぎ、にっこり微笑む。
相変らず貴族のような笑みで、言葉を失くす。
母はと見ると、苺同様に、言葉を失くしている様子。
「どうしました?」
ふたりの様子がおかしく見えたようで、爽が戸惑ったように聞いてくる。
「なんでもないですよ」
「そうは言っても……気になりますが」
「いえね、おでんと藤原さんの笑みが、ちぐはぐに思えただけですよ」
この母ときたら、わざわざ言わなくてもいいことを言ってしまうとは。
「ちぐはぐ?」
爽が呟いている間に、母は台所に戻って行ってしまった。
そうなると、爽の目は残る苺に向く。
「苺?」
困ったな。なんて説明しよう。
「つまり、爽の笑みが高貴過ぎるんですよ。だから、一般庶民感覚のおでんと、ちぐはぐに思えるってことですね」
「なんとなく、おもしろくありませんね」
「どうしてですか? 高貴な笑みを浮かべられるって、苺じゃ到底無理ですよ。羨ましい限りですよ」
「貴女も浮かべればいいでしょう。私の笑みが高貴かどうかは別として」
だから浮かべられるものじゃなんいだけどねぇ。とはいえ、こんな会話を、冷え込んだ玄関先で延々と続けたくはない。
「ほらほら、行きますよ」
苺はさっさと玄関から居間に入った。
まずはまこちゃんにご挨拶と思ったのに、まこちゃんはすやすやとお眠り中だった。
爽と頭をくっつけるようにして、まこちゃんの寝顔だけ楽しみ、夕食をいただくことになった。
全員が食卓につくと、土鍋が食卓の中央にでーんと据えられる。
「ねぇ、お母さん、はんぺんある?」
わくわくしながら聞く。
「あるわよ。まったくはんぺんの好きな子ねぇ」
呆れたように言わなくても。
全員が食卓に揃い、すぐさま土鍋の蓋が開けられる。
うはーっ、うまそう♪
「じゃがいもが美味しいですよね」
爽がにこにこして言う。
彼は、ほっこほこのじゃがいもが、いたくお気に入りのようだ。
そして、じゃがいもをなんとも上品に食べる。
苺も真似したいんだけど……爽のような箸使いは、誰もができるものじゃない。
「ところで、今年はイチゴサンタにはなってないの?」
おでんを美味しくいただいていると、母がそんな質問をしてきた。
「なってるよ」
イチゴサンタは今年も健在だ。
もう宝飾店ではないけど、あの衣裳は、新しいお店でも大活躍してる。
そして店長さんと藍原さんと岡島さんの衣装も。
そして今年のクリスマスイブは、とんでもなくスペシャルなことが予定されてるんだよね。
むふふっ。
そして翌日のクリスマスは、鈴木家でパーティー。
爽のお屋敷でのパーティーにも参加することになってるし、羽歌乃おばあちゃんのお屋敷のパーティーにも呼ばれてるし……パーティー三昧だよ。
爽のお父さんとお母さんも、そろそろ戻って来るそうだ。
クリスマスから年末にかけては、賑やかなことになりそうで楽しみだ。
おでんを食べ終えたあたりで、ついにまこちゃんが目覚めた。
それから一時間ほど、苺は大喜びでまこちゃんと過ごした。
もうすぐ一歳になるまこちゃんは、すでにあんよができるようになったのだ。
すぐコロンと転んでしまうので、目が離せない。
カタコトだけど、言葉も話せるようになってるし。
子どもの成長は、ほんと瞬く間だよ。
「それじゃ、おやすみねぇ」
玄関で見送ってくれる母に手を振ると、爽は丁寧に「ご馳走様でした」とお辞儀する。
次の約束をして、苺は爽と表に出た。
車へと歩いていたら、携帯に電話がかかってきた。
澪だ。
早速出ようとすると、爽に手を取られた。
「苺、先に車に入りましょう。こんなところで話していたら、身体を冷やしてしまいますよ」
「ですね」
苺は急いで車に乗り込み、電話に出た。
「はーい、おまたせ。澪」
「苺、いま忙しかった?」
「ううん。いま実家を出て、爽の車に乗り込んだとこだよ。今夜はおでんでさぁ、もう満腹で、身体の芯までほっかほかだよ」
「おでんか、いいねぇ」
「澪は、もうご飯終わったの?」
「うん。いまフカミッチーがお風呂に入ったんで、苺に電話したの」
「それで、こっちに遊びに来る日が決まった?」
「仕事もあと三日くらいしたら、ちょっと手が空きそうなんだ」
「そうか。けど苺さあ、フカミッチーにも会いたいんだよね。夜、一緒にご飯とかはダメかな?」
「うーん、フカミッチーがお風呂から上がったら聞いてみるよ」
「うん、お願いね。ねぇ、それでクリスマスは何か予定があるの? 羽歌乃おばあちゃん、澪たちにクリスマスパーティーに来て欲しいらしいんだけど」
「クリスマスパーティーか。実はさ、イブの日に大学が主催するクリスマスパーティーに行けることになったんだ。わたし、大学って行ったことがないから、行ってみたくて」
「へーっ、大学のクリスマスパーティー」
そいつは、心惹かれるじゃないか。
「苺も大学ってところには足を踏み入れたことがないし、行ってみたいなぁ。それって誰でも行けるの?」
「うん。一般参加オッケーらしいよ。なんかね、コンビニとかで前売り券を売ってるんだって」
「それじゃ、苺たちもパーティーに行けば、フカミッチーにも会えるね」
「苺たちも大学のクリスマスパーティーに来るの? けど、クリスマスパーティー、そっちでもやるんでしょう?」
「羽歌乃おばあちゃん家のクリスマスパーティーは、クリスマスの前の週の土曜日なの。おばあちゃんが喜ぶから、澪たちにもなんとか参加してもらえると嬉しいけど」
「それじゃ、それについてもフカミッチーに聞いてみる」
「うん、お願ね。それでパーティーが行われるのは、どこの大学なの?」
大学の名を聞き、また折り返し電話をもらうことになり、苺は電話を切った。
「爽、澪たちはイブに、大学のクリスマスパーティーに行くんだそうですよ」
わくわくして報告する。
「それで、あなたも行きたいわけですか?」
問い返され、苺は爽に向けて両手を合わせた。
「コンビニで前売り券を売ってるそうです」
「拝まれても、私は神様じゃありませんよ」
「ダメなんですか?」
「パーティーは何時からです? 私たちは、イブはすでに予定が入っているんですよ」
「そ、そうでした」
なーんだ。それじゃ無理だな。
残念だけど、大学のパーティーは諦めるしかなさそうだ。
つづく
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