クリスマス特別編
2018
4 突然の抱擁


着替えを終えた道隆は、クローゼットの扉の裏側についている鏡で、自分の姿を確認した。

うむ。悪いところはどこにもないようだな。ネクタイも完璧。

そこで道隆は少し考え、ネクタイを微妙に歪ませた。

これでよし。澪に直してもらえる。

そんなことを思いながら前を向いたら、鏡に映ったニヤけた自分と目が合った。

一瞬にして気まずくなる。

顔をしかめた道隆は、鏡から視線を反らすと、誤魔化すようにコホンと咳をした。

ネクタイを元に戻そうとしていったん手をかけたが、やめる。

ひとりで何をやってるんだ俺は……

自分に気まずく思うとか……別にいいだろ。
俺は澪に直してもらうのが好きなのだ。それの何が悪い。

自分を睨んでしまったが、また一人芝居をしている自分に、さらに気まずくなる。

やれやれ……俺ときたら……

馬鹿馬鹿しい。やめたやめた。

右手を振り、道隆は腕時計に目をやる。

出かける時間が迫っていた。
そろそろ家を出た方がよさそうだな。

自分の部屋を出た道隆は、澪の部屋のドアに歩み寄った。

寝室は一緒だけれど、それぞれ自分の部屋がある。

澪は家で仕事をしているので、ここを仕事部屋にしていて、彼女の私物もほぼここにある。

そしていま、彼女はパーティードレスに着替えているところ。

今日はこれから、藤原羽歌乃という婦人に招待され、クリスマスパーティーに参加することになっている。

かなりの資産家らしく、澪から聞いた話だと、まるでお城のような屋敷に住んでいるらしい。

金持ちのパーティーとか、正直気が進まない。

行かずにすめばその方がいいのだが、澪の大恩人というのでは行かないわけにはゆかない。

澪の友人である鈴木苺、そして鈴木苺の婚約者だという藤原爽……この藤原爽というのが、羽歌乃の孫らしいが……そのふたりにも今日初めて会うことになる。

澪から聞いたところでは、鈴木苺は澪に似たところがあるようだ。
初対面ではあるが、写真を見せてもらっているので容姿は知っている。もちろん藤原爽の方も……

ふたりは、かなりちぐはぐなカップルだ。
藤原爽の方は、育ちの良さがこれでもかというほどにじみ出ている男。かたや鈴木苺の方は、普通の女の子という感じ。

鈴木苺は親しみやすそうだが、藤原爽はな……

まあ、パーティーに参加させてもらって、澪が満足したところで帰ってくるとしよう。

金持ちの大きなパーティーならば、参加者も相当数に上るんだろうからな。

主催者の藤原羽歌乃は忙しいに違いない。もしも話をする機会があれば、澪が世話になった礼を言わせてもらうつもりだ。

ドアの前で考え込んでいたら、閉じていたドアが突然パッと開いた。

思わずぎょっとしたが、目の前にドレスアップした澪がいて、驚きの表情も笑みに変わる。

「驚いたあ」

目を丸くして澪が叫んだ。

「すまない」

苦笑して謝ったら、澪は笑って首を横に振る。

「開けたらフカミッチーがいるんだもん。ほんとびっくりしちゃった」

澪はクスクス笑いながら言う。

そんな表情も、これまた最高にかわいいわけで……

目尻を垂らして見つめていたら、澪がもじもじし始める。

「あ、あの……それで……ど、どう?」

澪は両手でドレスの裾を広げるようにしつつ、遠慮がちに尋ねてきた。

顎に指をあてて、検分するように見たら、今度は恥ずかしそうに目を伏せるようにする。そのさまがまた可愛い。

しかし、目尻がこれ以上垂れてしまっては、彼女の目に間抜けに見えるに違いない。というわけで、まず表情を戻し、道隆は改めて口を開いた。

「最高にきれいだよ、澪」

檸檬色のドレスは、彼女の白く滑らかな肌が際立ってみえる。

首元には道隆がプレゼントしたネックレスをつけてくれている。

「あ、ありがとう。フカミッチーもすっごい素敵」

褒められて嬉しいんだが……フカミッチーがな。

なるべく名で呼んでほしいと頼んでいるのだが、彼女はなかなか道隆と呼んでくれない。

そんな不満を胸に彼女を見ると、なぜか道隆の額のあたりをじーっと見つめてくる。

なんだ?

「澪、俺の額に変なものでもついているのか?」

額に指先を持っていきつつ尋ねたら、澪は慌てて道隆の手を掴む。

「そ、そうじゃないの。そうじゃなくて……」

「うん?」

答えの先を促すと、澪は困ったように笑う。

「はっきり言ってくれないと、気になるんだが」

「たいしたことじゃないの」

「だとしても、話してくれないか。気になって出かけられない」

催促したら、澪はまた、おずおずとした視線を道隆の額に向けてくる。

いったいなんなんだ? 俺の額がなんでそんなに気になるんだ?

「前髪を垂らしてるから……ほ、ほら、スーツの時の道隆は、いつも前髪を上にかき上げてるでしょう? それと眼鏡してるし」

「ああ」

確かに仕事に行くときは、スーツで眼鏡、前髪も垂らしていない。

「髪を上げた方がいいか?」

「あっ、い、いいの。そのままでも」

そのままでも、か。ということは、上げた方がいいってことなのか?

自分としては、どっちだろうとかまわない。たまたま髪を上げていなかっただけのことだ。

「それじゃ、そろそろ出発しようか?」

「はい」

頷いた澪は、「バッグを取ってくる」と口にし、背を向けようとしてまたこちらに向いた。
そして驚いたことに、道隆に抱き着いてきた。

ぎゅっと抱きしめられる。

突然の抱擁に喜びを噛みしめ、道隆も愛する澪を抱きしめたのだった。





つづく







ぷちあとがき

ようやく第4話まできましたが、まだパーティーに行けませんでしたね。

次回は、苺と爽、必ず登場します。って、今回は澪と道隆が主役なので、これでいいわけですけど。笑

クリスマスまでに、あと何話アップできるかな?
楽しみつつ、頑張ります(*^-^*)

読んでくださってありがとう。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです♪

帆風環(2018/12/21)

   
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