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第4話 ショック過ぎる目撃
えーっと…あとは、クッキーとかかなぁ?
父から母への贈り物は、案外すんなりと決まった。
春物のネッカチーフだ。
色が水色とピンクで、巻き方によって色合いに変化がつけられる。
きっと母は気に入るだろう。
思ったより値段は高く、八千円ほどだった。
残りは二千円無いのだが…クッキーはそんなにはしないだろうから…
そう言えば…
文香は眉を寄せ、携帯を取り出した。
一万円全部つぎ込んでしまってよいのだろうか?
文香は仕事をしているだろう父にメールをしたが、返事は思ったより早く帰ってきた。
使い切ってもいいらしい。
よしっ!
それじゃ大盤振る舞いで、二千円くらいのやつ探すかぁ〜
大盤振る舞いは、父であって彼女ではないのだが、文香は意気揚々とホワイトデーの商品が並んでいる売り場に向かった。
売り場には男性客もいたが、中年の女性が案外多かった。
文香みたいな若い女の子はあんまりいない。
若い女性は貰う方であって、買う方ではないものね。
文香はこんな場所にいる自分を笑いながら、売り場の商品を眺めて回った。
値段は色々で、二千円のものもけっこう多かった。
クッキーの箱にハンカチとか、それなりな大きさのぬいぐるみなんかがペアになっているものも多い。
文香は、うさぎのぬいぐるみが丸いクッキーの缶を抱えている商品を見つめて、笑みを浮かべた。
もし彼女が貰うとしたら、だんぜんこれがいい!
愉快なことに、その商品には、当店人気ナンバーワンとのメッセージメモがくっついていた。
やっぱりね。
文香は勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
愛嬌のある顔が、母性をくすぐってくるもん。
文香はうさぎの頭を愛しげに撫でた。
これを買って母に渡し、うさぎが欲しいと母にねだって手に入れるという誘惑にも駆られる。
しかし、この商品は三千円で、買うには千円足りない。
お駄賃としてせしめた千円を足せばちょうどいいが…
母は、文香が欲しいといえば、きっと快くくれるだろう。
ママにはネッカチーフもあるし…
けど、やっぱり、せっかくのパパからのプレゼント、取り上げるようなことしちゃ駄目だよね。
文香は、うさぎのつぶらな瞳をじっと見つめた。
うさぴー、残念だけど、これでお別れだよ…
心を存分に残しつつ、文香はぬいぐるみつきクッキーを棚へと戻した。
父が選ぶに違いないクッキーだけの詰め合わせのものを買った文香は、出口に向かおうとして、はっと足を止めた。
新垣君…だよね?あの後姿。
な、なんで新垣君が…こんなところに?
ホワイトデーの商品が並んでる棚を、彼は熱心に見つめている。
それも、先ほど文香が眺めていた可愛いうさぎのぬいぐるみの商品を手にしているようだ。
そして彼の隣には…
顔からすーっと血の気が引いた。
喉が詰まり、息が出来ない。
…吉…岡…さん…
「嬉しい…」
可愛らしい吉岡の小さな声が耳に届いた瞬間、文香は胸が引き千切れるほどの痛みを感じた。
文香は背を向け、その場から逃げた。
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