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4 お出迎えの準備 (長子
息を詰めて筆を動かしていた長子は、最後のひといろを添え、筆を置いてから、ふぅーっと大きく満足の息を吐き出した。
このところ、長子はこの絵にかかりっきりだった。
孫の和磨と真子の婚約パーティーが執り行われたホテルで企んだ紫苑展。あそこで真子を見て、長子の画家としての情熱は燃え上がった。
白いキャンバスを見つめること、三日目、ようやく筆を取れた。
そして、いい調子で色を添え始めたのだが……
どうにも、もう一度実物の真子を見ないでは筆が進まなくなり、四日前、和磨と真子の職場に手作りのクッキーを抱えて出かけたのだ。
偶然にも、その日に真子が電話をくれて、この家に遊びに来たいと言ってくれた。
あの電話はほんと嬉しかったわ♪
和磨をせっついて、無理やりにでも約束させなければ、連れてきてはくれないだろうと思っていたんだけど。
おかげで、俄然、この絵を完成させようと情熱を燃やせた。
なんとしても今日までに描きあげたくて、あれからこっち、かなり無理もした。
けど……ついに……
長子は、いま完成したばかりの絵を満足の目で見つめた。
会心の作と言っていい出来だ。
熱い絵を描く長子のこれまでの絵とは異なる雰囲気で、濁りがないと思える。
嫁の彩音は、この絵を見てどう感じるだろうか?
長子が感じていると同じ感覚を、あの嫁なら感じてくれるかもしれない。
真人は駄目。
あの子は素直さがないもの。
母親の描いた絵に対して、心で感じたものを素直に口から出すような子ではない。
それにしても……髪の色に、この緑色を混ぜたのはかなり冒険だったけど、この色を添えたことで、この絵はぐっと良くなったわ。
「どんなことも挑戦よね?」
長子は、自分が描いた絵の中の真子に向かって言葉をかけていた。
笑みを浮かべているわけではない口元に、少し笑みが浮かんだように見えて、長子の心に満ち足りた思いが膨らむ。
さてと……いま何時かしら?
時計で時間を確かめてみると、もう昼になるところだった。
お昼を食べて、真子さんをお出迎えするために掃除をして玄関やら居間を飾って……
あとは、夕食用の食材を採りに農園にいかなきゃならないわね。
となると、そんなに余裕はないわね。
こうしちゃいられないわ。
長子は作業部屋を出て、手軽に昼食を取ると、さっそく掃除に取りかかった。
――よし、いいわね。
綺麗に片づいた部屋を見回して頷いた長子は、自分の着ている服を見下ろした。
絵を描く時専用の作業着だ。
絵の具があちこちにべったりついているけど、どうせ洗濯するんだし、このまま農園に行ってくるとしよう。
農園から戻ったらシャワーを浴びて、この最近のお気に入りである草木染の綿のワンピースを着るとしましょう。
エプロンは、彩音がこの間くれた薄黄色のあれがいい。
長子は自分の考えに頷きながら、畑仕事用の麦藁帽子を手に取り、長靴を履いて外へと出たのだった。
つづく
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