ナチュラルキス ハートフル
natural kiss heartful


christmas特別番外編



7 必死のお願い



期末テストの答案の採点をしているところに、伯父の広勝から電話が掛かってきた。

忙しいので放っておいたが、電話は鳴り続け諦めそうにない。

啓史は仕方なく手を止め、携帯を取り出した。

「何?」

「……、相変わらず愛想がないな。結婚をすると人は丸くなるものなんだがな」

伯父貴ときたら、忙しい時に電話を掛けてきて、何を言ってんだ?

「お判りだとは思いますが、いま俺、忙しいんですが」

つっけんどんに言ったが、広勝は怯みもせずに話を続ける。

「ちょっとだけ耳を貸せ、直ぐに終わる」

「……なんです?」

譲る気はないようなので、啓史は仕方なく用件を促した。

「クリスマスイブだが、お前、すでに何か予定を立てているのか?」

イブ? その言葉で広勝の用件の予想がついた。

「予定というか……イブは沙帆子と過ごすつもりでいるけど」

母の久美子から、イブの夜から泊まりに来ないかと誘われたが、それは断り、翌日のクリスマスの夜に行くと伝えた。

沙帆子と過ごす初めてのクリスマスイブなのだ。
あまり浮かれたくはないが、正直楽しみでならない。

昨年の啓史は、敦のところで酒を飲んで過ごした。

あの時の俺、自分がこんな風に過ごしているいま、沙帆子はどんなイブの夜を過ごしているんだろうかと思っていたんだよな。

まさか、翌年のクリスマスイブに沙帆子と過ごせる状況になっていようとは……

できるものなら、あの時の俺に教えてやりたい。まあ、信じられないだろうが。

ああ、そうだな。あいつに、何かクリスマスプレゼントを用意しないとな。
何がいいだろうな?
「やはりそうか」

今年のクリスマスイブへの期待に、らしくなく胸を弾ませていたら、広勝が落ち込んだように口にする。

そんな伯父にたいして、どうにも申し訳ない気持ちになったが、母の方も断っているし、橘家でイブを過ごすという選択はできない。

「前日に顔を出しますよ」

「前日か」

「休日ですし、その日なら泊まらせてもらいますよ」

「そうか。よし、それじゃそういうことで、麗子に伝えておこう」

広勝は機嫌よく電話を切った。

仕事に戻ろうとして、啓史は考え込んだ。

沙帆子へのクリスマスプレゼント……麗子伯母さんに相談するかな。

お袋でもいいんだが、お袋に相談すると子供っぽいものを選びそうだからな。

おっと、こんな風に悩んでいる場合じゃない。仕事をこなさないと、家に帰るのが遅くなってしまう。

啓史は急いで仕事に戻った。





夕食を終え、食器を洗う沙帆子の隣で皿を拭いていたが、なにやら沙帆子の様子がおかしい。

何か言いたいことがあるようなのだが……

「沙帆子」

「は、はい」

呼びかけただけなのに、沙帆子は慌てて返事をする。

やはりおかしいな。

「どうしたんだ?」

「な、何がですか?」

「なんかあったのか?」

「……いえ、何も」

答える前に、躊躇いの間があった。

「何があった?」

「ほんとに何も……ただ、あの……」

啓史は、沙帆子が洗い終えてずっと手に持っている皿を取り上げ、水気を拭き取りながら「うん?」と話を促した。

「それがその……クリスマスイブのことで」

イブ?

「イブがどうかしたのか?」

「え、えーっと……じ、実はですね」

言いにくそうにしている沙帆子を見て、啓史は眉をひそめた。

イブのことで言いにくこと?

「何か予定が? ……ああ、もしかして飯沢たちとパーティーでもするのか?」

昼間ならば、構わないが。

「千里や詩織も一緒……あっ、もちろん先生も一緒にってことなんですけど……」

俺も一緒?

「実は敦さんからお誘いをいただいて」

敦だ? あの野郎がいったいどんな誘いをしてきたってんだ?

しかもこの俺を差し置いて……

「あいつの誘いになんて乗らなくていいぞ」

不機嫌に言ったら、沙帆子は困った顔になる。

「で、でも……もう行くことにしちゃって」

啓史はむっとして沙帆子を見た。

「なんで俺に相談もせず、勝手に決める」

「ご、ごめんなさい……」

沙帆子がしょぼくれてしまい、啓史は反省とともにため息をついた。

頭ごなしに叱るべきじゃなかったな。

こいつにだって理由があるに違いないのに。

「敦の誘いって、どんなものなんだ? 聞かせてくれ」

気を取り直して問いかけたら、俯いていた沙帆子はおずおずと顔を上げてきた。

啓史の顔色を窺いつつ、沙帆子は躊躇いがちに口を開く。

「それが……先生の卒業された大学のクリスマスパーティーに参加しないかって」

はあ、なんだって?

あのクリスマスパーティーに、誘ってきたってのか?

あんな風に俺を嵌めやがって……あの時は敦のいいよう使われて、いま思い返してもむかむかする。

一発殴ってやったが、あんなもんじゃ足りなかった。

「先生、ダメですか?」

「そんなに行きたいのか?」

そう尋ねたら、沙帆子は大きく何度も頷く。

「行ってみたいです。先生の通った大学のパーティーだし……そういうパーティーに参加したことないから……千里や詩織も凄く楽しみにしてて……」

沙帆子は瞳を潤ませ、両手を合わせて必死にお願いのポーズをする。

「先生と一緒に行きたいんです。お願いします!」

くそっ! そんな目で見つめられて、ダメだと言えるか?

そんなわけで、なし崩し的に大学のパーティーに行くことに決まってしまったのだった。





つづく




プチあとがき

クリスマス特別番外編
クリスマスの今日、第7話啓史視点をお届けしましたが……

予告した通りには終われませんでした。(^^;
すみませぬ。

とにかく、パーティーには行くことになったようです。
また続きは明日以降に。お楽しみにぃ♪

fuu(2016/12/25)
   
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