《シンデレラになれなくて》 番外編
ユウセイbirthday記念+サイト6周年記念
《シンデレラになれなくて、ふぁんたじぃだぞ》
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白き花を探して |
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第二話 おかしな花売り
着替えながらも、ユウセイはやっていることが無意味なこととしか思えず、気が滅入ってならなかった。
それでも、王子とわからぬ衣服に着替え終え、足早に外へと出た。
王子といっても、案外自由がある。
必ず護衛となる者を従わせねばならないが、それさえ気にしなければ、気楽なものだ。
彼の護衛は、だいたいトモキとテルマサ。
トモキもテルマサも大臣の息子。テルマサのほうは、将来を嘱望された騎士だ。
トモキには兄弟はいないが、テルマサは弟と妹がいる。
ユウセイは、テルマサの妹に会っていなかった。
もしかすると、この国の中で、ユウセイが唯一会っていない女性なのかもしれない。
なぜ会っていないかと言うと、テルマサが会わせるのを拒否しているからだ。
妹を、気苦労の絶えないだろう妃などにはしたくないということらしい。
会わせてもらえないとなると、どんな女性なのか少々気にはなるが、それも単なる興味本位。
テルマサの気持ちは尊重してやりたい。
まあ国王の妃である彼の母に、気苦労を感じることはまるでないのだが……あれも、母の性格ゆえなのだろう。
城の中を進んでいたユウセイは、周囲に人の気配がないのを確認し、とある曲がり角ですっと細い隙間へと入り込んだ。
身幅に少し余裕がある程度の通路を歩みながら、ポケットに入れていた帽子を取り出し、目深に被る。
王子として城から出ようとすると、見送りのファンファーレという洗礼を受けることになる。
これから王子が城外にゆかれますよという知らせをするのが、決まりなわけだ。
そんな御大層な見送りなど、願い下げ。
通路を突き進み、ユウセイは城から出た。
あとは、城壁沿いに裏門へと進み、トモキやテルマサと合流すればいい。
ふたりも、私服に着替えて待っているはずだ。
「花はいりませんかぁ、花はいりませんかぁ」
若い女性の声が聞こえ、ユウセイは眉をひそめた。
前方に、黒い質素な服を着た女性が、花でいっぱいの籠を持ち、うろちょろしている。
こんな場所に花売りがいるのはおかしい。
思わず立ち止まって花売りを見つめていると、ユウセイに気づいたようで、おかしなスキップを踏みながら、ありえない速さで近づいてきた。
「ども、ども。ご機嫌いかがあ?」
「君は…? どうしてこんなところに?」
「もっちのろん、この花を売りに来たんだけど」
わかりきったことを聞くわねという目つきで言う。
どうやら、彼が王子だとはわかっていないようだ。
それにしても、この女性とは初対面だ。
ユウセイは眉を寄せたまま、彼女の持つ純白の花に目を向けた。
ずいぶんと良い香りがする花だ。それに可憐で美しい。
「この花は? なんという花なのかな? 見たことがないが」
香りを嗅ぐほどに心が引きつけられる。その艶の良い花びらにも色合いにも……
「そりゃあ、当然ね。見てたら、わたしはここにいないもの」
「君……それはどういう意味なのか?」
「この花は化身……」
「うん?」
「探しにいらっしゃいな。この冒険は、そりゃあ楽しいわよ、王子様」
ユウセイはきゅっと眉を寄せて、相手を見た。
王子だと知られているとは。
「君はいったい……?」
「さあ、おさらばの時間よ。ねえねえ王子様、ちょっとこれ見てよお〜」
女はどこから取り出したのか、箒を差し出すようにして見せる。
「箒……?」
「魔女には箒なのよ。定番は外せないの。絶対にやりきってみせるわよぉ」
女性はイキイキと叫び、箒にまたぐ。
これで飛ぶつもりか?
まさかな。おとぎ話じゃあるまいし……
箒にまたがった女は、両足で踏ん張ってポンと地を蹴った。
ふわっと舞い上がるかと目を見張ったが、女の身体は重力に素直に従い、五十センチほど前方で両足をつけた。
「や、やだ」
困惑したように叫んだ女は、箒にまたがって着地したときの滑稽な姿のまま、ユウセイに振り返ってきた。
気まずさいっぱいの真っ赤な顔。
見ているこちらまで気まずさが湧く。
「その……誰であれ、箒で飛ぶのは難しいんじゃないかと思うのだが」
相手があまりに気の毒すぎて、思わずそんな慰めの言葉をかけてしまう。
女はさらに顔を真っ赤に染め、顔をひきつらせた。
「じょ、助走が足りなかったの。それだけ!」
恥辱交じりにに怒鳴った彼女は、焦りを見せて、箒にまたがったまま、タタッと走る。そして、思い切り両足揃えて地を蹴った。
ポンと飛び上がったが、結果はさきほどと同じ。そしてまた、真っ赤な顔でユウセイを振り返ってくる。
どう慰めてよいやらわからず、ユウセイは眩暈がした。
彼とがっちり目を合わせた彼女は、さっと顔をそむけ、諦めずに、また同じことを繰り返す。
そうこうしているうちに、彼女は自然とユウセイから遠のいていった。
かなり遠くまで行ってしまったところで、それまで、おかしな女の様子をじーっと見ていたユウセイは我に返った。
あの純白の花を……わけてもらいたい。
その思いが突き上げてきて、ユウセイは女の方に視線を向けた。
えっ? いない?
見渡す限り、女の姿はどこにもない。
ほんの一瞬目を離しただけなのに、彼の視界に入らないところに行ってしまったらしい。
彼女を追って駆け出そうとしたユウセイだったが、足を止めて地面に目を向けた。
箒で飛ぼうと、何度も跳ねていたし、一輪でも落としていっていないだろうか?
彼女の通ったと思える道筋を辿ってみたが、花は落ちていなかった。
ユウセイは、いたたたまれずにその場から駆け出した。
あの花を、どうしてもわけてもらわねば。
彼女を最後に見たあたりまで駆けてきたユウセイは、地面にきらりと光るものを見つけた。
さきほどの花かと思い、思わず目を凝らすと、どういった仕組みなのか、二重の虹色の輪が浮かんでいた。
ユウセイは何も考えず、その輪に右手を差し伸べた。
すーっと引き寄せられるように身体が傾き、彼は有り得ない浮遊感を感じた。
王子の身体を吸い込んだ光の輪は、その役目を追えて消滅した。
城の中庭はいつも同様シーンと静まり返り、王子とおかしな花売りとのやりとりがあったことなど、誰もしるよしもなかった。
同時刻、裏門前では三頭の毛並みの良い馬とともに、トモキとテルマサの姿があった。
ふたりとも、ひと待ち顔で、城の裏口を見つめている。
「ユウセイ様が遅れるとは、珍しいな」
テルマサは少し息を切らせながら言った。
突然の召集を受け、当然騎士の制服を着ていた彼は、猛スピードで着替えて、ようやく時間に間に合ったのだ。
おまけに、馬まで出しておけと命じるし……
あの王子ときたら、ひとの立場や苦労がまるでわかっていない。
こっちは魔法使いじゃないというのに。
「ここに向かう途中で、誰かに捕まってしまったのかもしれません」
「ああ、そうかもしれないな」
さっさと妃を見つけてくれればいいのに……そしたら職務中に、こんなふうに呼び出されることも減るだろう。
まあ、世話の焼ける王子だが、彼にとっては親友。
ユウセイのしあわせを願ってはいる。
「それで、トモキ、どこを回る?」
「そうですねぇ……ああ、おいでになりましたよ」
トモキの言葉に城の裏口に目を向けると、帽子を目深にかぶった男が歩み寄ってきている。
「ユウ、遅いぞ」
ユウというのは、お忍びで行動するときの、ユウセイ王子の呼び名だ。
「すまない、待たせた」
テルマサに歩み寄ってきたユウセイは、たずなを受け取り、颯爽と馬にまたがった。
「ユウ、どこに行く? 向こう場所は決めているのか?」
「ああ、決めている。行こう」
軽快なひずめの音を響かせながら、ユウセイを乗せた馬が駆けだす。
トモキもすでに馬にまたがっていて、遅れを取らぬように王子の後を追う。
さて、今日は何時に戻って来られるのか?
それとも、数日放浪することになるのだろうか?
まあ、それも悪くはない。
テルマサはふっと笑い、馬に飛び乗ると、ふたりの後を追った。
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プチあとがき
えーと、ひさしぶりの企画もの。
今日は七夕で、優誠の誕生日。それを記念してのお話となっています。
今日は、優誠の誕生日なのよねぇと考えていたら、ぴょこっとお話が浮かび……そうなると書かずにいられなくなる。
サイト6周年記念も、なにもしていなかったので、それもかねてということで。
どのくらい続くのか、現時点では私にもわかりかねますが、「kuruizakiにふぁんたじぃだぞ」よりは、たぶん短く終わる予定。
わたしとお付き合いの長い皆様にとっては、この台詞あてにならんと思うかもしれませんが……たしかにあてになりません!!!
ともかく、他のお話の更新もしつつ、楽しみながら書き上げたいと思います♪
で、登場人物は、すでにご承知の通り、「PURE」《シンデレラになれなくて》のメンバーですが、生い立ちとか性格とかは、本編とは微妙に違ってくるかもしれません。
すでに、トモキが違いますし。笑
ここでの知樹は、素直で真面目、両親も健在です。
箒をうまく飛ばせずに、大恥をかいていたのが誰かは、わざわざ言わずともはっきりしてますね。笑
この後、愛美も登場します。
どんな物語になるのか、私と一緒に、楽しみにしていただけたら嬉しいです♪
fuu(2011/7/7)
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