《シンデレラになれなくて》 番外編
 優誠birthday記念+サイト6周年記念
《シンデレラになれなくて、ふぁんたじぃだぞ》
白き花を探して
第二十一話 光の箱



ユウセイは、王子とわからぬ衣服に着替え終え、辺りを窺いながら部屋から出た。

護衛兵の姿はなく、ほっとする。

城の中を進み、人の気配がないのを確かめ、細い隙間へと入り込む。

緊急事態にいる身だが、この感覚は懐かしい。

ずいぶんと余裕じゃないか、ユウセイ。

そう自分に皮肉を飛ばし、細い通路を歩きながら、帽子を目深に被る。

城から裏庭に出たユウセイは、人の気配がないのを見てほっとしつつ周りを見回した。

ここで花売り娘になっている魔女様に会ったのだった。

あのときは、訝しいばかりだったが……

さて、どこだったか?

地面に目を向けて目的のものを探す。

二重の虹色の輪が浮かんでいたのは……たぶん、ここらあたり……

ユウセイは落胆した。

どこにもない。

もしや、まだ残っているのではと期待したのだが……

これでは、老人や花売り娘のところに行く手段はない。

あとは、馬を走らせて、マナミの住む、かの地に行くしかない。

三日……二日あればなんとかつけるだろうか。

決意したユウセイは、厩に足を向けた。

「ユウセイ」

呼びかけに驚いて顔を向けると、テルマサがいた。

「久しぶりだな」

「は? 何を言っている。昨日も会っただろ」

昨日?

ああ、それはつまり、私に化けた父上のことだな。

「そ、そうだったな」

「お前……いや、王子、こんなところで何をしておいでです。お忙しいでしょう?」

城の召使いが忙しそうに頭を下げて横を通り抜けていき、テルマサが口調を改める。

「婚礼のことを言っているのか?」

「は? ……もちろんそうだが」

召使がいなくなったのを確認して、テルマサは口調を親しいものに戻したが、ユウセイを見て、ひと゜く眉をひそめている。

「相手は、本当にトウコ姫なのか?」

テルマサにすれば、こんなことを問うユウセイを変に思うのだろうが、テルマサの反応に構わず、ユウセイは重ねて聞いた。

「ユウセイ……お前、大丈夫か?」

不安そうに聞かれ、ユウセイは苦笑いしつつ、小さく首を横に振った。

「いや。おかしいぞ。……やはり、お前、トウコ姫との結婚に納得できていないんだろ?」

「ま、まあ……それは」

他に言う言葉が思いつけず、ユウセイは口ごもるように言った。

「やはりか……」

テルマサは、表情を暗くし、悩ましそうに周囲を見回す。

「トウコ姫は、お前にとって最良の相手だ。他の女を選ぶくらいなら、トウコ姫だと私も思う。お前の決断は間違っていないさ、ユウセイ。ほかに選択肢はなかったんだからな」

慰めるように言われ、ユウセイは苦笑いした。

「トモキのことが、気にかかるんだろう?」

「あ……ああ、まあな」

さきほどのトモキの態度は当然といえた。

トウコ姫だけは、絶対に妃に選ばないと、自分はトモキに言ったというのに……

さらに、ユウセイの結婚式の翌日、ふたりを結婚させるとまで。

トモキの受けたショックを考えると……

絶対に、なんとかしなければ……

だが父としても、ユウセイの誕生日が迫り、仕方なくの決断だったのだろうが……

しかし、なぜ、今日なのだ。
誕生日までは、まだ日にちがあるのに……

日柄がいいとか……そういうことなのか?

とにかく、自分はトウコ姫とは結婚できない。

「ユウセイ……大丈夫か? お前の部屋まで送ろうか? それに支度もあるんだろう?」

まるで弱った小動物を見るような目を向けてくるテルマサに、乾いた笑いが漏れる。

「私は大丈夫だ。ところでテルマサ、父上がどこにいるか知らないか?」

「王か……執務室……あたりじゃないのか?」

父は今回のことをすべて知っているのだうし、まずは父に会いに行って事情を聞いた方がよさそうだ。

だが、父に捕まったら、逃げられなくなる可能性もあるか?

やはり、馬で逃げ出すか……

婚礼の期限である、彼の誕生日までにマナミを連れて戻れば……問題はないはず。

問題はないよな?

マナミの両親や地の精霊であるシズネも、いまはふたりの結婚を認めてくれているんだし……

しかし、いったい、あと何日残されているのか……余裕はあるのだろうか?

マナミを連れ帰るなら、馬車でなければ……となると、行き帰りで最低一週間は欲しいな。

「ところで、テルマサ。今日は何日だ?」

「お前……」

こいつ、本当に大丈夫か? というような目を向けられ、苛立つ。

「いいから教えてくれ」

「もちろん七月七日。お前の誕生日だ」

これにはさすがに面食らった。

今日が婚礼の期限である七月七日だと?

ど、どうして……?

賢者様と、魔女様は、なぜそのことを?

いや、もうそんなことに構っている場合じゃない。
このままではまずい。ものすごくまずい。

強烈に危機感が込み上げてきて、ユウセイはその場から駆け出した。

「お、おい!」

テルマサの驚いた声など構わず、厩へと疾走する。

「よお、ユウセイ」

厩の前に、サネツグ王が立っていた。

まるで、ユウセイを待っていたかのようだ。

「ど、どうして……はあっ、はあっ……こ、ここに?」

息を切らせながら、責めるように聞く。

「もちろん、お前が来るんじゃないかと思ってな」

「どういうことです? いったいぜんたい、私がいない間に」

「そう、お前がいなかった。国民に不安を抱かせないためには、お前の縁談が、つつがなく進んでいるように見せる必要があった。だからトウコ姫との縁談を進めるしかなかったんだ」

「私には結婚したい相手がいるのです。トウコ姫との結婚などありえません」

「おいおい、大きな声を出すな。それに知っているさ、マナミ姫だろう?」

マナミの名が出て、ユウセイは少しほっとした。

「やはり、父上は、すべてご存知なのですね。ならば」

「いいから、ついて来い」

ユウセイは迷ったものの、父のあとについて行った。

父の表情には、彼を安心させる穏やかさがある。

「それにしても、なんて姿だ。それでは婚礼などあげられないぞ」

ユウセイの姿を眺め回し、呆れ返ったように言う。

「ですから、私は婚礼などあげないといっているのですよ」

「何を言っている。今日はお前の誕生日なんだぞ。何があろうと、絶対に婚儀をしなければならない」

「マナミを連れてきます」

「必要ない」

その言葉にカッときた。

「貴方にはなくとも、私には必要あるのですよ!」

「おいおい、こんな場所で大声を出すな。お前は王子の自覚がなさすぎるな」

睨まれて、睨み返す。

「できるものなら、王子の身分など投げ捨てたいですよ」

ユウセイは疲れたように口にした。

隣を歩く父もまた、疲れたように肩を落とす。

「親を散々心配させておいて。レイナもどれだけ心配していたか……」

「母上も、今回のこと、ご存知なのですか?」

「ああ。ひとり二役をしている私を心配し……」

ユウセイのことを、じっと見て口を開く。

「お前……わかっているのか?」

「何をです?」

「お前の魂は……危うく消滅するところだった」

父に言われ、そうだったと思い出す。

「まさか、それをも、母上はご存知だと?」

「ああ。魔女様にいただいた光の箱が、お前に起こるすべてを我らふたりに教えてくれていたからな」

「光の箱?」

「小箱だ。蓋を開くと、お前に何が起こっているのか、知ることができた」

そんなものが……
だが、すべて知られていたとは……

「正直、嬉しくありませんね」

「親なんだぞ。我々は。そしてお前は、息子であり、この国の世継ぎである王子だ」

一言一言、言い聞かせるように言う。
そしてサネツグは、顔をしかめて、ユウセイから視線を逸らした。

「言う必要のないことを言ってしまった。……私もまだまだ未熟だな」

独り言のように言うと、サネツグは足を速めた。

ユウセイはその歩みについて行きながら、アリシアのことを尋ねた。

「もちろん母上も来ている。たくさんの客人を連れておいでだ」

「客人?」

「ああ」

「客人とは誰です?」

それもたくさんのとは……?

サネツグは答えず、スタスタ歩いて行く。

「父上、何か妙案でもあるのですか? 私はこのまま、トウコ姫と結婚しなければならなくなるなんてことは、ないのでしょうね?」

「まあ、何を騒いでるの?」

母、レイナの声が聞こえ、前方に顔を向けたユウセイは、身を竦めるように足を止めた。

レイナと並んで立っているのは……

「マ……マナ」

レイナに寄りかかるようにして立っているマナミは、ユウセイを見つめて、はにかむような笑みを浮べる。

心臓を射抜かれたような衝撃を受け、ユウセイは思わず胸を押さえた。

マナだ……本当に、ここにいる。

ようやくすべてが理解でき、大きな安堵が湧き上がった。

ユウセイは駆け出し、マナミを高々と抱え上げた。

「ユ、ユウセイさん」

「マナ。もう放さない絶対に」

マナミを下ろしたユウセイは、彼女を夢中で抱き締めた。







プチあとがき
なんか、もう、終わりっぽいですが、まだ終わりじゃありません。笑
もうちょっと、お付き合い下さい。

fuu


   
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