|
46 容赦なし
うわーっ、豪華!
そんな感想を心の中で叫びつつ、歩佳はテーブルの上を見回す。
ピザが届いたのだけど……
ピザだけでなく、サイドメニューもいっぱいだ。
美晴の驕りで、宮平君と柊二さん、やっぱりそれなりにがっちり注文したんだなぁ。
そう考えて、笑いが込み上げてしまう。
「それじゃ、熱いうちに食べよ」
美晴がそう言った途端、「いただきっ!」と柊二がピザに手を伸ばす。
それに負けじと、宮平もさっそくピザを頬張った。
ふたりとも、すっごい美味しそうに食べるなぁ。
彼らの食べっぷりに思わず見入っていたら、隣りに座っている柊二が歩佳に向いた。
あわわっ!
目が合い、ちょっとたじろいでしまう。
「歩佳さん、食べないの?」
「た、たっ、べっ、ます」
あからさまに動揺して口にしてしまい、顔が赤らむ。そのせいで、さらに動揺が増すわけで……
だって、結局座る場所は柊二さんの隣なんだもんなぁ。
嬉しいけど、ドキドキしちゃって……
「歩佳、ほらほら遠慮してちゃダメだよ。ぐずぐずしてたら、成長期のこいつらに全部持ってかれるよ」
ピザを食べつつ、美晴は真顔で注意してくる。もちろん冗談なんだろうけど。
「あ、う、うん」
笑って頷いたら、柊二が「歩佳さん、これでいい?」とピザを指さして尋ねてきた。
「は、はい」
慌てて返事をすると、柊二がピザを手渡してくれる。
きゃーっ、柊二さんに取ってもらっちゃった♪
嬉しくて心の中でにまにましていたら、今度は美晴が、「ほら歩佳、これもお食べ」とサイドメニューのポテトを目の前に置いてくれる。
「い、いただきます」
ピザを頬張ったら、「これも美味しいよ。歩佳さん、次はこれ食べる?」と柊二がさらに勧めてくれる。
柊二さん、とっても甲斐甲斐しいんですけど。
嬉しいけど、嬉しい分だけ顔が赤くなっちゃって、恥ずかしいよぉ。
赤らんだ顔を気にしつつ、勧められるまま食べていたら、さすがに食べ過ぎてしまった。
「わたし、もうお腹いっぱいです。ご馳走様」
「もういいの?」
柊二に聞かれ、歩佳は頷いた。
「歩佳は、いつもこんなもんだよ」
パクパク食べながら、美晴が口を出す。
「小食なんですねぇ」
宮平はそう言うけれど……けっして小食ってことはないと思う。
普段より、たくさん食べたよね。
「姉貴が食いすぎなんだって。その身体のどこに入るんだか……不思議だよ」
柊二は、姉を観察するように見て言う。
「食べ物は、胃に入るに決まってるじゃん」
そう言い返し、美晴は残っているポテトを口に入れる。
そんな感じで、三人は競い合うように食べ、テーブルの上の食べ物は綺麗になくなった。
そしてそのあとは、宮平がボードゲームを出してきて、みんなでやることにした。
わいわい楽しい雰囲気なのだが……ここにきて、歩佳はお手洗いに行きたくなってきた。
けど、恥ずかしくて言い出せない。
こ、困った。
行けないと思うと、なおさら切羽詰まった感じになるというか。
でも、もじもじしていたら、みんなに悟られてしまうかも。
悟られては、恥ずかしいし……
ああん、もおっ。どうしよう?
『お手洗いを貸してね』って普通に伝えて、立ち上がって行けばいいだけなんだから……
ほら、歩佳、早く!
自分を叱咤するが、行動に起こせない。
「歩佳さん、どうかした?」
「えっ?」
柊二に声をかけられ、無様に焦る。
「ああ、な、なんでも」
ああ、思わずなんでもないって言っちゃったよ。
そんなこと言っちゃったら、もうお手洗いに行きたいなんて言い出せないじゃないかぁ。
馬鹿馬鹿、わたしの馬鹿ぁ。
顔は微笑みつつも、内心では自分の頭をポカポカ叩く。
「それじゃ、ゲーム開始するよ。このボードゲーム、少々長丁場になるけど、いいよね」
な、長丁場?
宮平の説明に、ちょっと気が遠のく。
もう我慢するしかないけど……我慢できるのかな?
「あっ、ちょっと待って」
軽い絶望感に打ちひしがれていたら、美晴がそう言って立ち上がった。
「ゲーム開始の前に、お手洗いに行っときたいわ。歩佳、あんたも行っとくでしょ?」
み、美晴!
「う、うん」
美晴に盛大に感謝しつつ、歩佳は立ち上がった。
もう、美晴ってば、さすが心の友だわ。
わたしの気持ちを察してくれたんじゃないの。
美晴のおかげで難を逃れ、そのあとのゲームは、ダントツの最下位という有様だったけど、とても楽しかった。
だいたい、三人とも容赦がないのだ。
普段は気遣いのあるやさしい柊二でさえ、勝負事となると情け容赦なかった。
トップは柊二、二位が宮平、三位が美晴という結果だ。
最下位の歩佳はビリでも楽しんでいたのに、二位の宮平と三位の美晴は本気で悔しがっていた。
けど、ふたりが悔しがるぶん、柊二は嬉しいようだった。
わたしも、もっと悔しがった方がよかったのかな?
つづく
|