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◇10 ティラ 〈冒険者ギルド〉
今日は寄り道をしなかったので、だいぶ早く昨日の町に到着した。
冒険者登録はどこでもいいと父から情報をもらったので、昨日とは違う町に行ってみようかとも考えたが、この町には漆黒の美女さんがいる。
一週間後って約束したから、今日会えるとは限らないけど、あの人の他に冒険者の知り合いはいない。
会えたら、冒険者としての心構えとか、もろもろ必要なことの教えを乞うのもいいかなと思ったのだ。
ギルドである程度説明してもらえるだろうけど、実戦経験のある人の話の方が、役に立つと思う。
人に尋ねながら冒険者ギルドに向かう。
昨日とは違うお菓子屋さんや、旨そうな匂いに気もそぞろになるが、残念ながらいまは一文無しだ。
それらを物欲しそうに見つめながら歩き、ようやくギルドに辿り着いた。
建物の中に入ると、冒険者があちこちでたむろしている。
うわーっ、ギルドってこんななんだ。すっごい広いなぁ。
物珍しさでキョロキョロしてしまう。
「うおっ、なんだぁ?」
誰かにぶつかってしまい、ティラは「あっ、すません」と謝りながら頭を下げた。
「なんだぁ? 嬢ちゃん、こんなところになんの用だ? 誰か探してんのか?」
すっごく背の高い男の人だ。
栗色の長めの前髪を大きな右手でうざったそうにかき上げ、ティラと目を合わせてきた。
端正な顔立ちが現われる。
けど、人の良さが滲んでいて、ちょっと安心する。
誰か探して……か?
漆黒の美女さんに会えたらと思ってたけど……いまここにはいないようだ。
なんにしても、なんでもかんでも人に頼るつもりはないからね。
冒険者登録の手続きは自分ひとりでやりきらねば。
「わたし、冒険者登録に来たんです。受付ってどっちですか?」
「は?」
男の人は、ぽかんとしてティラを見ていたが、声を上げて笑い出した。
「面白い冗談だ」
いえ、冗談ではないんですが。
その人は腰を曲げて、くっくっくっくっと笑い続けている。どうやら、ツボをついてしまったらしい。
「もういいです。失礼します」
そう言って背を向けたら、「ちょ、ちょっと待て」と焦って肩を掴まれた。
「受付の場所、教えてくださるんですか?」
「まさか、本気か?」
「もちろんですよ」
「本気で冒険者になるつもりなのか?」
繰り返されてちょっと面倒になってきた。ティラは無言で頷く。
「馬鹿言うなよ。お嬢ちゃん、あんたじゃ無理だ」
「どうしてですか?」
「どうしてって……誰だってあんたを見りゃわかるさ」
「そうなんですか?」
「ああ。だから、おとなしくおうちに帰るんだ。わかったな、お嬢ちゃん?」
わからないわぁ。
まあ、確かに夕方になったらおうちに帰りますけども……
「ご丁寧な対応、ありがとうございました。それでは、これで失礼します」
ちょっと憤慨したけど、この人は悪気で言ったわけじゃない。なので大人の対応をする。
ティラはぺこりと頭を下げ、その場から立ち去ったのだった。
つづく
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