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◇9 ティラ 〈条件付きの冒険者〉
「あー、お風呂は最高だねぇ」
たっぷりの湯船に浸かり、ティラは満足の声を上げる。
初めてのお使いは、残念ながら取り引きなしってことになったけど、両親は十分だと褒めてくれた。
それに猛毒団子と採取した植物を母さんへのお土産に手渡したら喜んでもらえたしね。
さらには、美味しいお菓子もいっぱいゲットできた。
あの漆黒の美女冒険者さんと別れたあと、小一時間ほど買い物を楽しんだのだ。
親の目のない場所で、好きなだけ買い食いできて……楽しかったなぁ♪
まあ、おかげでお小遣いは底をついちゃったけどね。
けど、これからたっぷり稼ぐ予定だから大丈夫なのだっ!
そのためには、冒険者になりたいと両親に言わなきゃ。
風呂から上がったティラは、さっそく両親の前に行き、両の拳を固めて宣言する。
「わたし、冒険者になることにしたから! 母さんがどんなに反対しても、絶対になるからねっ!」
ティラの力強い宣言に、両親の反応は薄かった。
な、何?
即座に反対してくるかと思ったのに。
「なるからね!」
どうしていいわからず、もう一度繰り返す。すると母が「そう」と言う。
な、何、なんなの?
「は、反対しても……」
「なら、ひとつ条件があるわ」
「えっ、条件?」
うわーっ、母さんのことだ、とんでもない条件を出してくる気じゃ?
戦々恐々として母の言葉を待つ。
「家から通うこと。門限は夕暮れまで。外泊は絶対に許しませんからね」
は、はいーっ?
家から通いながら冒険者をしろと?
「な、な、ないからっ! そんな冒険者絶対いないから! ねえ、父さん、そうよね?」
「いや、行けるんじゃないか」
行ける?
「行けないわよっ!」
「いや、行ける行ける」
「毎日美味しいお弁当を作ってあげるわね、ティラ」
ありえません。ありえませんってば!
家から通いの冒険者? しかも、母の手作りの弁当持ち?
「ぜーったい、ないからぁ!!」
だが翌日、ティラは弁当を持ち、森の中を歩いていた。
時折魔獣が現われたが、どいつもティラの怒りのこもった電撃に脳天を直撃されてあっけなくひっくり返る。
「冒険者ってのは、毎日家に帰ったりはしないものなのよ。なんでうちの親はそれがわからないの?」
まあ、だけど……あのあと父さんに諭されたのよね。
毎日一人で出かけるだけでも、母さんにすれば大きな譲歩。だから、わたしの方も譲歩しろって。
いずれ母さんの気持ちも変化してゆくだろうからって言われて、一応納得したんだけど……
それがいつまで続くのかわからないって、もやもやするというか……
しゅるるるっと、鞭のようなものが飛んできて、ティラはパチンとはじき返した。
ついでに鞭を飛ばしてきたツッタと呼ばれる魔物を蹴り飛ばしておく。
粉塵を上げて地面に叩きつけられた魔物はすでに息絶えている。これは魔獣でなく魔物の類だ。樹木系の魔物で移動できるタイプ。
素材としてはあまり価値がないし、魔核石も小さな粒だ。同じ樹木系でもクッタならば、魔核石ももっと大きいのだが……
つづく
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