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◇8 キルナ 〈匹敵冒険者募集〉
まったく、この娘ときたら、わけがわからない。
だが、普通の娘でないことは理解した。
先ほどの相手とのやり取りには、まったく唖然とさせられたしな。
いったい何者なのだ? もちろん悪人ではないだろうが……
ともかく、このまま別れる気にはどうしてもなれなかった。
さて、どうしたものか? 送っていくと、つい言ってしまったが……
「魔道具を使ってなら、どのくらいの時間で家に帰れるんだ?」
試しに聞いてみる。だが彼女はきょとんとなった。
「はい? なんのことですか?」
「隠さなくていい。無理やり取り上げたりしないからな」
冗談めかして言ったが、彼女はぽかんとしている。
「あの逃げ足……お前、魔道具を使ったんだろう?」
「使っていませんよ」
「なら、なぜあんな人間離れした速度で走れた?」
「ああ、それはちょっとしたコツがあって……って、こっ、これは内緒でした。聞かなかったことにしてください!」
両手を合わせて懇願してくる。
「コツ?」
ちょっとしたコツであんなにも早く走れるようになるというのなら、ぜひ教えを請いたいところだ。
でもそれは、口にしてはいけないことだったらしい。
キルナは頷いた。
「わかった。聞かなかったことにする」
するとほっとしたように息を吐き、娘は笑顔を見せる。
「ありがとうございます。あの、それじゃ、もう手を放してくださいませんか。家に帰らないとならないんで」
「ほんとに危険はないのか? 魔獣に襲われても逃げられる自信があるのか?」
念を押すと、即座に「はい」と返事をして頷く。
キルナは苦笑するほかなかった。
「なら、後日、お前の無事を確かめさせてくれ」
「えっ? どういうことですか?」
「会う約束をするという事だ。お前、また使いを頼まれて、この町に来るんだろう?」
娘は黙り込んだが、しばらくしてこくんと頷いた。
「わかりました。けど、両親の許可をもらってってことになるので、一週間後でどうですか?」
「私はそれで構わない。で、時間と場所は?」
「お昼に、わたしがお弁当を食べていた噴水のところでどうでしょう?」
「了解だ。それでは、十分気を付けてな」
「はい。心配してくださって、ありがとうございます」
にっこり笑うと、娘は普通の速度で駆けて行った。
姿が見えなくなり、キルナは眉を寄せた。
そういえば、名を聞かなかったな。こちらも名乗っていないし……
まあ、次の約束をしたことだし、その時に聞けばいいな。
さーて、まだ日暮れまで時間がある。再度依頼を受けて、魔獣退治に行くとするか。
キルナは不思議な娘が姿を消した方向を今一度見やり、ふっと笑う。
次に会うのが楽しみだ。あの娘、私の退屈を吹き飛ばしてくれそうだ。
そうなのだ。キルナの旅は、修練のための旅だというのに、どこの魔獣も、まるきり手応えがない。
古代遺跡などにはとんでもない怪物がいるようなのだが、残念ながらソロの冒険者では依頼を受けられないし、立ち入りの許可も下りない。
無許可で行こうかと思わないでもないが、それがバレたら冒険者の証明書を剥奪されてしまう。
だからといって、荷物になるような者とパーティーは組みたくないからな。
キルナはギルドに向かって歩き出しながら、小さくため息を吐く。
どこかに、この私に匹敵する力ある冒険者がいないものだろうか?
つづく
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