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108 ティラ 〈捜索依頼〉
「ソーンさん、よさそうな依頼ありました?」
「そうですね。これなど、どうかと思うのですが?」
肉屋から、魔鳥の依頼だ。十羽ほどと書いてあるが、何羽でも引き取ると書いてある。
ソーンさんは弓が得意だから、ぴったりかも。報酬もまあまあだ。
わたしもそれがよかったなぁと思ったが、背後からキルナが覗き込んできて、「それはやめておけ」と意見を言う。
「どうしてですか?」
「そういう依頼は、報酬は高いがランクは上がらない」
ああ、そうか。懐はたっぷり膨らんでるんだから、いまは報酬目的ではなくランク上げのために依頼をこなすんだった。
「しかし、Fランクでは、国やギルドからの依頼はないと思うぞ」
ゴーラドさんの言う通りかもしれないけど……
「Fランクの魔鼠退治で、一気に+5つけてもらえましたよ」
「それは、たまたまだな」
「でも、似たような依頼はあるんじゃないですかね」
小物の魔獣や魔物がたくさん増えて困ってて、少しでも討伐してもらえたらって感じの依頼なら、Fランクでも……
「あっ、これどうかな?」
樹木系の魔物の討伐依頼だ。魔鼠タイプの依頼だし、これならまた+5くらいランクが上がるかも。そうしたら一気にFランクマスターになれる。
けど、まずはソーンさんだ。わたしだけ上がってしまっては申し訳ないものね。
「ソーンさん、これソロで受けたらいいですよ。樹木系の魔物討伐です。クッタは風魔法に弱いから、ソーンさんにうってつけですよ」
「ほお、いいな」
「ああ、いいと思うぞ」
キルナもゴーラドも太鼓判を押してくれる。
「僕がもらってしまっていいのですか?」
「遠慮は無用ですよ。全部討伐する勢いでやればといいと思いますよ」
「わかりました。では頑張ってみます」
すぐに受付に行くと思ったのだが、ソーンは何やらティラに言いたそうにする。
「ソーンさん、どうしたの?」
「いえ、勇者様は冒険者になりたてとのことですが、勇者様ほどの方であっても、ランクというのはそれほどまでに上がらないものなのだろうかと、少し不思議で」
「こいつはランクを上げる努力を怠ってきたからな」
キルナにポンポンと頭を叩かれる。
怠ったつもりは……まあ、ないとは言えないか?
「これから頑張りますよ。みるみるランク上げてみせますからね」
胸を張って宣言する。その自信はたっぷりある。
ソーンは受付に行き、必要な手続きを終えると、初めての依頼へと出発した。
もちろん地図の読めないソーンをひとりで行かせられないため、ゴーラドが付き添って行った。
ティラの初めての依頼の時もそうだったけど、現場に誰かと一緒に赴いても、その人が手出しさえしなければソロの活動として認めてもらえる。
さて自分も、と依頼を探すが、ソーンが受けた依頼に似たようなものはなかなかない。
上のランクなら、いくらでもあるのになぁ。
そう思うとなおさら早くランクを上げたくなる。
まったく、このランクの制度って、やっかいだなぁ。
その時、ギルドに男の人が飛び込んできた。まっすぐに受付に行く。
仕立ての良い服を着込んでいて、見るからに裕福そうだ。
「コルンが行方不明になったんです。お願いです。探してください!」
必死な叫びに、ギルドにいた者たちが一斉に注目する。
受付は「落ち着いて、詳しく話してください」と促す。
キルナとティラは、男の人の話が聞こえる位置に移動した。
男の人は商人で、妻と三歳の子ども、そしてコルンという名の希少種の魔白狐を連れて、使用人ふたりを伴い、この町に住むお得意様に商品を届けにきたらしい。
すると目を離したちょっとした隙にコルンがいなくなり、いくら探しても見つからないと言うのだ。
屋敷の主人は家の中は全部探したのだから、外に出て行ったのだろうと言い、面倒事に巻き込むなと屋敷から追い出されたというのだ。
「うはーっ。最悪な人ですね」
「屋敷の周りを探しても見つからない。お願いです。どうかコルンを探してください。妻も娘も、とてもかわいがっているんです。いなくなって娘は泣き続けていて……お金ならいくらでも出しますから」
「わかりました。魔白狐の捜索依頼ですね。確か、しっぽが三つあるのではなかったですか?」
「は、はい。その通りです。それが特徴です」
「では、屋敷の住所を教えてください」
受付は必要な情報をもらい、素早く書類を差し出す。
「では、この書類にサインを。重要な情報を得た者には銀貨十枚。コルンを発見した者への謝礼は金貨一枚とします。それでよろしいですか?」
「そんな僅かな金額でよろしいのですか?」
「ギルドは公正です。どんな内容であれ、適切な金額を設定しております」
そこで受付は立ち上がり、この場にいる冒険者に声をかけてきた。
「緊急依頼です。この依頼を受ける冒険者はいますぐ受付に」
その呼びかけに、何人かが受付に並ぶ。その中にはもちろんティラとキルナもいた。
◇ギヨール
一方、こちらは大悪党ギヨール。
あくどい商売で稼いだ金で大きな屋敷を建て、裕福な生活をエンジョイしている。
いまは珍しい魔白狐をついに手に入れ、にやにやが止まらないところだ。
あの魔白狐は、ずっと狙っていたのだ。それで時間をかけて飼い主の男を信用させ、商売を持ちかけた。
今回、あの男がひとりで来ると言うのを、奥さんとお子さんも大歓迎すると甘い言葉で招待し、ペットの魔白狐とともに屋敷にこさせることに成功した。
そして隙をついて魔白狐を捕獲し、絶対に見つからない特別仕様の宝物庫に隠したのだ。
あの宝物庫はとんでもなく金をかけた。
私は、盗人などに忍び込まれるような馬鹿ではないからな。
ギヨールはソファから立ち上がり、窓に近づく。
外を見ると、魔白狐を探しているらしき冒険者どもが、あちこちでうろついている。
家にまで押しかけてきて、家の中を捜索させてくれなどと言ってきおったらしい。あんな小汚らしいやつらを、この屋敷に入れるわけがなかろう。
しかし、あの男、ギルドに泣きついたとは、まったく面倒なことをする。
金のないやつらは、報酬目当てで必死になって探すに違いない。まあ、見つかるわけがないがな。
「くっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
忍び笑いをし、またソファにふんぞり返る。
あの魔白狐……しばらくしたら、遠方の国まで運び、オークションにかけて売りさばいてやろう。いったいいくらの値がつくだろうか、楽しみだ。
つづく
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