|
113 ティラ 〈ファイトを燃やす〉
町では大爆発が起こったと大騒ぎになっていた。
もちろんティラとキルナはそ知らぬふりで、ギルドに戻った。
「おっ、戻ったか」
ゴーラドがギルドに入ってきたふたりを見つけ、手を上げて歩み寄ってくる。
「そっちの首尾はどうだった?」とキルナが尋ねる。
「いまソーンは受付に報告に行ってる。樹木系のクッタって魔物、ほぼ狩り切ったぞ。ティラちゃんの助言通りに風魔法を使ったら、攻撃してくるツタが絡まっちまって身動きできなくなってな。魔核石の数も半端なかったから、かなり期待できる」
そうか。もしかすると、ソーンさんもわたしと同じ+5になれるかもね。
「ところで、半時前の爆発騒ぎ、ふたりとも驚いたろ? 俺たちは町に戻ってくる途中だったんだが」
「あ、ああ。私たちも驚いた」
「は、はい。なんだったんでしょうねぇ? あ、ソーンさんが戻ってきましたよ」
「勇者様、キルナ様」
「頑張ったらしいな、結果はどうだった?」
「は、はい。それがFランクマスターというものになれたようです」
えっ? なんだって?
一瞬、ティラは言葉を無くす。
「ほお。一回の依頼でマスターにまで昇格するとは、凄いじゃないか」
「そうなのですか? 勇者様が激励してくださいましたので、期待に応えようと頑張りました」
ソーンは照れ臭そうにティラに向けて微笑む。なんの邪気もないソーンに、ティラは己を恥じた。
「ところで、受付の方が、勇者様とキルナ様に会われたら、受付にきてくださるよう伝えてくれとおっしゃっていました」
受付? キルナと顔を見合わせる。
「たぶん、魔白狐捜索が解決したとの報告だろう。もう探す必要はないからな」
「ああ、そういうことなんですね」
魔白狐はあの子の元にちゃんと戻ったはず。
「魔白狐?」
「尻尾が三つある希少種の魔白狐の捜索依頼があってな」
「尻尾が三つもあるのか? そりゃあ変わってるな」
「そのような魔狐がいるのですか? 見たいものですね」
ソーンも興味を惹かれて話に食いついてくる。正直、あまり根掘り葉掘り聞かれたくないのだが……
「キルナさん、受付に行かないと」
「おお、そうだな」
話しを切り上げ、ふたりして受付に急ぐ。
受付に行ったら、「依頼達成ご苦労様です」と言われぎょっとする。
「魔白狐が戻ったと、依頼主様がおいでになったのですよ。それで、依頼主様がどうしてもおふたりに直接お礼を伝えたいとのことで、宿に顔を出してもらえないだろうかとの伝言を頼まれました。で、こちらが今回の報酬です。どうぞ。お疲れ様でした」
金貨一枚を差し出され、キルナが受け取る。
受付から離れ、ティラは「それ貰っちゃってよかったんでしょうか?」とキルナに小声で相談する。
「あの赤い球だな」
思案してキルナが口にし、ティラもあっと思う。
「魔白狐にあげちゃったの、まずかったですね。あとで球だけ届ければよかったです」
「あの屋敷を爆破したのが私達だとバレてるんじゃないだろうな?」
「で、でも……あの屋敷の悪党、魔白狐など知らないと言い張ってたわけですし、魔白狐を見つけたのは屋敷の中じゃなかったってことにすれば、大丈夫なんじゃないですか?」
「確かにな。では、それで行こう」
「ただですね、屋敷の悪党にとってわたしたちは、盗品を全部かっさらい、さらには屋敷を爆破した相手ですから、逆恨みして必死に探そうとするかもしれませんよね」
いくら悪党といえども、屋敷を爆破したことには、少なからず申し訳なさを感じている。
「それでティラ、どうする? 宿屋に行くのか?」
「やめておきましょう。もう解決したんですし、お礼もいただきました」
「そうだな。私もそれがいいと思う」
「ふたりとも、なにをこそこそ話してるんだ?」
ゴーラドに話しかけられ、ティラとキルナは会話を中断した。
ああ、そうそう、ゴーラドさんに渡すものがあったんだった。
ティラはポーチから産みたての卵を取り出し、差し出す。
「ゴーラドさん、これトッピが産みましたよ。はいどうぞ」
「俺がもらっていいのか?」
「ゴーラドさんの魔核石を食べた結果の卵ですから。遠慮なくどうぞ」
昼も過ぎたので、昼食を取ることにし、四人は冒険者の休憩所に移動した。
この町の休憩所と調理場はギルドにくっついているので移動が楽でいい。
それにしても、ソーンさんが早々とマスターになっちゃうとは。
これは負けてられないよね。
昼食を作りながら、ファイトを燃やすティラだった。
◇キルナ
「昼飯を食ったら、この町を出ようと思う」
昼食を取っている仲間たちに、キルナは言った。
突然の話に、ゴーラドとソーンは戸惑っている。ティラは、やっぱりかぁと思ったようだ。
「もう出るのか? まあ、反対はしないが、急すぎるのは何か理由でもあるのか?」
ゴーラドに聞かれ、返事に詰まる。
理由は、ギヨールの屋敷を爆破したからだ。ふたりに内緒にしたいわけではないが、事が事なので、どうにも言いづらい。
「わ、わたしが、ちょっとやらかしちゃって……ごめんなさい」
ティラが小声で謝る。
「ちょっとやらかしちゃったって……いったい何を?」
ゴーラドは口にし、ハッとした顔になった。どうやら気づいたか。
「まあ、そういうことだ」
「マ、マジか? けど、なんでそんなことに?」
「あのぉ、おふたりの話が見えないのですが……」
ソーンがおずおずと聞いてくる。
ティラとの付き合いが長いとピンとくるだろうが、ソーンはまだ日が浅い。
その時、トッピが「ぷっぴぴーーーっ、ぷっぴぴーーーっ、ぷっぴぴーーーっ」と狂ったように鳴き始めた。
ずっと、寝ているのかと思うほどおとなしかったのだが……
「まずいかも!」
ティラが突然立ち上がった。
「な、なんだ?」
「どうしたんだ?」
「勇者様っ!」
驚いた三人を置き去りにし、鳴き続けるトッピとともに、ティラは物凄い勢いで休憩所から飛び出て行った。
つづく
|
|