冒険者ですが日帰りではっちゃけます



115 キルナ〈回復薬〉


「重いだろう?」

隣を歩いているティラに、辛抱たまらず、ついにキルナは口を出した。

小柄な体、しかも普通の服を着た少女が、背中にでっかい大剣を背負っているのだ、違和感バリバリだ。

「別に重くないし、平気ですよ」

本当に平気そうだ。街道を避け、近道を取っているので、山道を延々と登っている。

そんな難所といえる道をずっと担いで移動しているのだから、そろそろ音を上げるんじゃないかと様子を見ていたのだが、音を上げる様子はなく涼しい顔をしている。

バテているのはティラではなくソーンの方だ。しかし、弱音を吐かず、三人に着いてくるところは見上げたもの。

ティラはそんなソーンに回復薬を渡そうとしたが、それと気づいてソーンに知られないようにキルナはティラを止めた。

回復薬に頼っていてはいつまでも三人に追いつけない。極限まで頑張ることで基礎体力は上げられるものなのだ。

ゴーラドがいい例だ。トードルの卵の依頼の時は必死になっていたが、いまはなんなく着いてくる。

元々身体能力は高いし、体力もある方なのだから、ソーンもすぐに追いつくだろう。

「しかし、なんでそれなんだ? ボロボロじゃないか」

「ゴドルさんに修理してもらおうと思ってたんですけど」

ああ、そうなのか。だが、もうあの町から出てきてしまった。

「もっといいのがいくらでもあっただろうに、どうしてその大剣なんだ? 何かわけでもあるのか?」

「だって、超素敵でしょ、これ?」

超素敵?

「どこがだ?」

「えーっ! キルナさん見る目ないですね」

自分の大剣にケチを付けられ、不貞腐れて言い返してくる。

頭を殴ってやろうか!

だが、それも大人げないので、拳を固めて我慢する。

「勇者様、本当に重くはないのですか?」

ソーンは息を切らせつつティラに聞く。

うむ、いい加減休憩を取った方がよさそうだな。

「全然。とっても軽いの」

ティラはそうは言うが、そのごっつい見た目、軽いとは思えない。

「ちょっと持たせてみろ」

キルナは手を出したが、ティラは「ダメですぅ」と、これまたこましゃくれた返事をする。

やはり殴ろう!

拳にした腕を勢いよく上げたら、目的を遂げる前に「まあまあ」とゴーラドに止められた。

まったく、なんの意味もなくそんなものを背中に担いでいるとか、わけがわからないぞ。

魔獣が現われると、ティラは弓や槍をポーチから出して応戦しているのだ。
どうせなら、大剣をポーチにしまい、弓か槍を装備しておけばよいものを。




「あっ、いくつか集落が見えますよ」

一番に坂を上り切ったティラが報告してくる。

「キルナさん、目的のタソ村はどれですか?」

ティラに追いつき、眼下を眺める。

「あそこだ。あの一番大きな集落だ」

今夜はあそこで一晩過ごすつもりだ。
そこそこ大きな村で、宿も一件ある。数回泊まったことがあるのだ。

女将が綺麗好きらしく、居心地のいい宿だし、出してくれる料理もうまい。

集落はどこも街道沿いにあり、いまも幌馬車などが行き来しているのが見える。

次に選んだ目的地まではあと二日ほどかかる。山の中腹にあるホラドルという町で、人気の温泉地だ。

ティラと話していて温泉地があると話したら、ゴーラドとソーンも行きたがった。そんなわけで、すぐにアラドルの町を出た。

「ここで少し休憩していこう。ソーン、足は大丈夫か?」

ゴーラドが心配して声をかけると、ソーンは「はい大丈夫です」と強気で答える。

やれやれ、地面に座り込むのにも辛そうな顔してるくせに、何が大丈夫だ。

そんなソーンの隣にティラが座る。

きっと治癒魔法で回復してやるつもりに違いないと思って窺っていたら、ポーチをごそごそし始め、小さな包みを取り出した。

「ソーンさん、これあげる」

ティラは包みをソーンの手に握らせた。

「これは?」

「カカラの実で作ったお菓子なの」

「カカラの実?」

「口の中に入れるとふわっととろけるの。食べてみて」

あの、大魔蛇討伐で手に入れたカカラの実で作ったのか。どんな味なんだろうな?

ソーンは袋から茶色の丸いものを摘んでだす。

「手の熱で溶けちゃうから、早く口に入れた方がいいわ」

ティラに注意され、ソーンは急いで口に入れた。その瞬間、ソーンはハッとしたように目を見開く。

「このようなものは食べたことがありません。とても美味しいし、なんだか体が楽になった気がします」

「歩きながら食べるといいわ。疲れも吹き飛ぶと思うし」

やはり回復薬だったようだ。だがまあ、いいだろう。ここまで頑張ったわけだしな。

しかし、キルナとしてもその茶色の菓子の味は気になる。

「ティラ、私にもそれをくれ。一粒でいい」

「キルナさん、甘いものは苦手なんじゃないんですか?」

甘いのか。

「食べたことがないんでな。どんなものか味わってみたい」

「俺にもひとつくれ」

ゴーラドも手を出す。

ティラは別の包みを取り出し、キルナとゴーラドに一粒ずつくれた。

「カカラの実は飲み物にしかならないのかと思ってた。菓子にもなるのか」

そんなことを言いつつ、ゴーラドは口に入れる。

「すりつぶして乾燥させたあと、壺に入れて発酵させるんです」

「そうなのか? おお、うまいぞ。作り方を教わりたいな。兄貴んとこのチビたちが喜びそうだ」

ゴーラドも気に入ったようだ。キルナも口に入れてみる。

ふむ。ティラが言ったように口の中に入れた途端、ふわっととろけてしまう。
いい感じの甘味が口の中に残った。

だが、これが回復薬? そこはいまいち確信が持てなかった。

それでもそのあと、ソーンは疲れを見せなくなり、移動速度が自然とアップし、タソ村まで予定していた半分ほどの時間で着いてしまった。

やはり、回復薬だったのだろうか?





つづく



 
   
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