冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇4 ティラ 〈再びお弁当〉

ああ、参ったね。

町に入り、ティラは一息つく。

後ろを確認してみたが、漆黒の美女さんの姿はなくほっとする。
追いかけてはこなかったようだ。

それにしてもだ……

うん、初めての町は、とても新鮮に映るなぁ。

人もいっぱいで、荷馬車が石畳の道を、ガラガラと騒がしい音を立てて行き交っている。

馬車を引いているのは馬だけでなく、大きな魔鳥のパムや魔牛などさまざまだ。昼も過ぎたこの時間、店の並ぶ通りは人で溢れていた。

さて、どうしようかな?

お弁当はまだ食べ終えてないし、先に食べたいよね。

お使いを早くすませたら、少しくらい町を散策したい。

ティラは周りを見回し、お菓子が並べられた店を見つけた。瞳がキラキラと輝く。

うわーっ、宝物の山だぁ。

それに、あっちの露店かのらは、お肉を焼いてる匂いが……

たっ、堪んないよぉ。

よし。お弁当をいただいてお使い済ませて、あとはたっぷりと楽しもう!

その時、足元に何やら落ちているのに気づいた。

おやっ? これってお財布だよね?

拾ってみたら、さほど重量はなかった。

さて、落し物は警備兵か警備団の詰め所に届けるんだけど、いいものがあるのだ。

母の作った使い捨ての魔道具の札。

普通は自分の荷物に張り付けておくもので、どこに落としても自分の元に戻ってくるというありがたい代物。

それを取り出し、ペタリと張る。

財布はふっと消えた。
今頃は持ち主のところだろう。

「おわっ、さ、財布がっ!」

建物に隠れた方向から、声が聞こえてきた。

「なんだよニルバ、落としたんじゃなかったのかよ」

「落としたんだが……目の前に落ちてきた」

「なわけあるかぁ、てめぇボケてんじゃねぇ」

「いでっ!」

なにやら誤解されて殴られたようでニルバさんにはお気の毒だが、財布が戻ったのだからよしとしてほしい。

笑いながらその場を後にし、お弁当を食べるのによさそうな場所を探す。
するとどこぞから水音が聞こえてくるのに気づいた。

音に誘われて行ってみたら、噴水だ。

わあっ、とっても綺麗。

噴水の周りは広場になっていて、緑も多い。人もいっぱいだ。

町の住人だと思われる人々、旅人と思われる人々、そして冒険者たち……

大きな町だし、きっとここにはギルトとやらもあるだろう。魔獣を討伐する冒険者たちが集う場所。

ギルドでさまざまな依頼を受けて、それを糧に生活する人たち。

実はすっごい憧れてるんだよねぇ。

わたしももう十五なんだし、父さんと母さんの許しがもらえたら、冒険者ってのを経験したいなぁ。

自立って大事だしね。

そうそう、さっき遭遇した漆黒の美女さん。あのひとも、きっと冒険者のひとりだろう。

わたしもあの人みたいに、かっこいい冒険者になりたいなぁ。

ただ、心配性の母さんがとことん嫌がりそうだけど……

まあ、帰ったらダメもとでお願いしてみようかな。許しがもらえるんなら、毒入り料理もいくらでも食べてやるしっ!

未来に心躍らせて芝生の上に直接座ったティラは、昼食の続きに取り掛かる。

風向きから噴水の飛沫が頬に当たる場所で、最高の気分だった。





つづく



 
   
inserted by FC2 system