冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇5 キルナ 〈気になる〉


「おおっ、また十体もの魔獣を。さすがSSランクの冒険者だな」

ギルドの職員が称賛するように言う。

ここは討伐した魔獣を引き取ってくれる施設で、狩ってきた魔獣を魔道具の袋から取り出したところだ。

しかし、この程度の魔獣討伐で褒められては、むず痒いものがある。

キルナは女性では珍しいソロの冒険者だ。これまで拠点としていたガラシア国から、このラッドルーア国に、一週間ほど前、移ってきたのだ。

冒険者は、ギルドより発行された証明書を提示すれば、国をまたいで自由に行き来できる。

この国をある程度渡り歩いたら、また次の国に行くつもりでいた。

「全部買い取っていいとのことだが、魔核石もいいのか?」

魔核石は装備の材料にもなるし、魔道具を作るのに必要不可欠なもの。けれど、魔獣によってその質はさまざまだ。
この辺りの魔獣のものはキルナにとってはたいした価値はない。

「全部引き取ってもらって構わない」

「そうか、わかった」

今回の報酬は、大銀貨一枚といったところだろうな。

白銀貨十枚で金貨一枚分になる。

ちなみに、貨幣は六種類。銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨だ。白金貨は、価値が高すぎて普通ではお目にかかることのない貨幣だ。

銀貨が一枚あればたらふく飯が食えるし、三枚あればそれなりの宿に泊まれる。

報酬はギルドの受付で受け取れる。が、すぐに受け取る必要はなかった。
どこのギルドでも受け取れるし、国をまたいでも大丈夫だ。だから金が必要になったところで必要な分だけ受け取ればいいのだ。

それより、問題はこの魔道具の袋だな。

この魔道具の袋は、ギルドに申請して貸し出してもらったものだ。
たかだか十体で満杯になってしまうのだ。

以前、拠点にしていた町アラドルのギルドで貸し出してくれる袋は、この十倍は入ったのだが。
これでは竜など狩っても一体も入らない。

まあ、このマカトの町周辺で竜が出没することはないようだ。竜程度の魔獣などもいないのだろう。

自分のものがあれば一番いいのだが、この魔道具の袋はとんでもなく高価だ。
キルナもいま腰に下げてはいるが、こいつは身の回りの物を入れるので満杯になってしまう。それでもめちゃくちゃ高かった。
だがこれのおかげで、長旅をするにも身軽でいられて助かっている。

次に魔獣討伐の依頼を受ける時には、袋の数を多くしてもらえないか頼んでみるとしよう。

ギルドを出たところで足を止め、キルナは顔をしかめた。

先ほどの娘、やはり気になる。

あの速度での逃げっぷり、あれは魔道具を使ったのに違いない。

魔獣の生息する森の中で、のほほんと弁当を食べていたのも、飛ぶように走れる魔道具を所持していたから、あの危機的状況からも逃げる自信があったのだろう。

さらにはあの腰につけていた幼稚なデザインのポーチ。あれも間違いなく魔道具だった。
しまい込んだ弁当箱の方が、明らかに大きかったからな。

ともかく、興味の尽きない娘だ。探してみるとしよう。
とはいえ、この町は大きいから見つかる確率は低いだろうな。

あの娘の話では、この町まで使いに来ており、今日中に戻るつもりでいるらしい。

魔道具があれば戻れるのかもしれないが、魔獣にやられる可能性は否定できない。

考え込みながら彼女を探して歩いていたら、いともあっさり見つけられた。

「また弁当を食べてるのか」

呆れたことに、噴水近くの芝生に座り、大口を開けて食べている。

うら若き乙女がひとりで、野外で弁当を食べるなど、いまだかつて目にしたことがない。

それに、女性が弁当持ちとかないだろう。
町に来たなら、食堂で昼食を取るのが普通。

だいたい女ひとりで町の外をうろついたりしないものだ。すぐに魔獣に襲われて、ジ・エンドだ。

冒険者ならばあり得ないこともないが……その場合、かなりの手練れでなければ無理だし、防具も武器も持たないなど……

「あり得ないだろう?」

娘のところに到着するまでに十分な憤怒が込み上げていたキルナは、思わず怒鳴りつけてしまっていた。

突然怒鳴られた娘は、口をもぐもぐさせながら、キルナを見ると、露骨に顔を歪めた。

こいつ、また来やがった。と思ったに違いない。





つづく



 



   
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