冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇6 ティラ 〈漆黒再登場〉


こいつ……

い、いえ……なんでこの人、また現れたの?

仁王立ちで睨んでるし。意味が分かんないんですけど……

「えーと、なんですか?」

睨まれっぱなしなので、こっちから恐る恐る尋ねる。

するとその人は、まるで自分をなだめるようにひとつ息をつくと、隣に座り込んできた。

な、なんで座るのぉ?

「説教をしなきゃ、気が済まない」

「は、はいーっ?」

な、なんで説教?

「いや、もういい……。ところで、用事はもう終えたのか?」

「まだですけど」

「そうか。なあ、お前、魔道具は持たせてもらえるのに、町の食堂で昼を食べる金はもらえなかったのか?」

この人、勝手に想像したことを事実と認識して話してるよね?

「今後のために教えておくが、町の広場で弁当を食べるなんて行為、若い娘のすることではないぞ」

「えっ? この広場でお弁当を食べてはいけない決まりなんですか?」

「決まりがあるわけではないが……」

それを聞いてほっとする。

「よかった」

まあ、決まりではないけど、この町ではみんなやらないってことか。

「次からは気を付けます」

お使いは、これからちょくちょくやらせてもらえるだろうからね。

素直に頭を下げたのが功を奏したようで、漆黒の美女さんが少し微笑んだ。

うわおっ、笑うとさらに美女度が跳ね上がるね。

「あの、あなたは冒険者なんですよね?」

わざわざ聞くまでもないんだけど。

スキル付きの高性能の防具を身に着けてるし、これまたスキル付きの質のいいマントもつけてる。そして腰に下げた剣は、ずいぶんと見事だ。

「ああ」

「パーティーは組んでいないんですか?」

「私はソロだ」

女性の冒険者でソロかぁ。たぶんかなり珍しいよね。けど、納得だ。めっちゃ強いもの、この人。

会話をしている間に、ティラは弁当を食べ終えた。空っぽになった弁当箱に向け、「ごちそうさまでした」と頭を下げる。

「面白い娘だな」

くくくっと笑われ、ティラは首を傾げて漆黒の美女さんを見る。

「何が面白いんですか?」

「何がじゃなくて、全部だな。それより、食べ終わったなら行くぞ」

漆黒の美女さんが立ち上がる。

ティラは眉をひそめた。

行く?

「あの、わたし、お使いの用事があるので、これで失礼します」

慌てて立ち上がり、そそくさとその場を後にしようと思ったのだが、腕を掴まれた。

「その用事とやらを終えるまで、私が付き添ってやろう」

「は、はい? な、なんでですか?」

「危なっかしいからに決まっているだろう。時間が遅くなるようだったら、お前の家まで送っていってやろう。ああ心配はいらない。護衛の費用を出せなんてつまらないことは言わない」

この人、よっぽど暇なのかな?

「いえ、そんな必要はないので。わたし、ひとりで大丈夫ですから」

初めてのお使いだっていうのに、人に手伝ってもらうとか、あり得ませんから。

「遠慮することはない」

いやいや、これはもう余計なおせっかいってものだ。

なんでこんなことになっちゃったのぉ?

お弁当なの? お弁当を、あんなところで食べたのが悪かったってのぉ?

ティラはいまだ名も知らぬ漆黒の美女さんに、文字通り引きずられていったのだった。





つづく



 
   
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