冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇59 ティラ〈探索の許可〉


小麦畑を眺めながら、ティラはタッソン村をひとりで歩いていた。

ニコラさんの用意してくれたランチを食べて、お腹も福々だ。母の手弁当を食べられてないので、良さげな場所を見つけて食べるつもりでいる。
そのまま持って帰るってのはないからねぇ。

ゴーラドさんは、もう二時間ほどでタッソンを出発しようということになったので、コルット君、サリサちゃんと遊んであげている。キルナは森の中だ。

お兄さんのカラムさんは、もう健康体と言ってもいいくらいの回復。明日から仕事に復帰するそうだ。

カムラは鍛冶職人で、かなりいい腕を持っているらしい。仕事仲間もカムラの復帰を物凄く喜んでくれているそう。

それはいいのだが、カラムが鍛冶職人と聞いて、ティラは疑問を持った。

カムラが妖魔の標的になったのは、森の奥を鍛冶仲間と歩いていたからだ。

鍛冶職人が森の奥に行く理由? あり得るのは鉱石の採取くらいだよね。

つまり、この村の近くに鉱石の採掘場があるってことだ。けど、それは公にされておらず、村の財産として内密に管理されてるんだろうなと推測している。

でもだ。この辺りを飛び回ったけど、鉱石の採掘場など発見していない。という事は……やっぱ、ダンジョンだよね。

大きなダンジョンだと隠してはおけないが、小さな規模なら国に申請する必要はない。

ダンジョンってのはどこにでも突然できるものだ。上手に維持すれば長いこと資源を得ることも可能。
そういうダンジョンを抱えられると村や町は経済が安定し、暮らしやすくなる。

タッソンが規模のわりに裕福なのも、そう考えると頷ける。

たぶん、ゴーラドさんもダンジョンのことは知らないだろうね。村長、村の重鎮、役場関係者と、鍛冶職人くらいかな。

こんな場所に有益なダンジョンができてるとはねぇ。発見されて、どのくらいの年数が経っているのかも気になる。

ダンジョンを覗いてみたくてうずうずするけど……無理だろうなぁ。

「ティラさんではありませんか」

呼びかけられて顔を向けたら、ちょっとだけ見覚えのある人だった。
ゲラルの残骸を確認に同行した人のはず。

「こんにちは」

「お会いできてよかった」

うん? わたしに何か用事?

「実は、例の魔獣の残骸が綺麗に消えてしまったんですよ。魔土鼠が食い荒らしたにしては、あまりに綺麗さっぱり消えてしまっていたので……もしや、何かご存じではないかと」

「あ、あれ、こちらの方で拾って処分させていただきました。報告した方がよかったですね。すみません」

その説明で納得してくれたが、少し残念そうだ。

「頭が残っていたなら、研究材料に欲しかったと薬師に言われまして。少しでも残っていませんか?」

「すみません。何も残ってないです」

全部、父に渡してしまったからなぁ。

「そうですか、わかりました。薬師にそう伝えておきます」

申し訳なく思いつつ、その場を去ろうとしたのだが、まだ話があったらしい。

「村長が、役場までおいで願いたいとのことです」

「どんな用事なのか、わかります?」

「魔獣討伐の報酬をお渡ししたいとのことでした」

魔核石とお肉をもらったから、いらないって言ったんだけどな。

村長の呼び出しとあれば出向かないわけにもいかないようなので、その人にはゴーラドに伝えに行ってもらい、ティラはキルナを迎えに行った。


数十分後、三人揃って村長と村長室で相対していた。

匂い袋で魔獣を森に誘導したことにもお礼をいただき、報酬の話になった。
提示された金額は適正ではないと、討伐依頼に精通しているキルナの納得する額……提示された半分を受け取った。

それで、その場を後にすることになったのだが……

「あの、村長さん」

ダンジョンへの興味が消せず、ティラはつい話しかけてしまう。

「なんでしょうか?」

「その……」

ティラは思い切って村長に近づき、耳元に囁いた。

「ダンジョン、ありますよね。森の奥に」

村長はぎょっとしてティラを見る。うん、当たりだな。

黙り込んだ村長は、ひどく困った顔になる。なんか、すみません。

「どうしたんだ、ティラ?」

キルナが歩み寄って尋ねてきた。ゴーラドも眉を寄せて隣に並ぶ。

「見つけたのですか?」

村長に聞かれ、ティラは「いいえ」と否定した。

「見つけてませんよ。見つけられないようにしてありますよね?」

「……ならば、どうして?」

わかったのかって?

「鍛冶職人の方々が森の奥にまで行った理由が、他に思い浮かばないからです」

村長は額に手を当て、苦笑いなさる。

「参りましたな、利発なお方だ。……それで? 潜ってみたいとおっしゃるのかな?」

「興味があるので、少し覗かせてもらえたら嬉しいですけど……無理は言いませんよ」

「ちょっと待ってくれ、この近くにダンジョンがあるのか?」

「マジかよ」

キルナも興味津々、ゴーラドはビックリしている。

「あなた方は村をお救いくださった。……そうですな、村の者を同行させてならば、許しましょう」

「ほんとですか? 村長さん、ありがとうございます」

ティラは大喜びで礼を言った。

「これからでもいいですか?」

出発する前にちょこっと覗こうという考えで言ったら、さすがに無理とのことだった。

翌日、早朝に出発という事で話は決まった。

ダンジョン探索! ウキウキである。



つづく



 
   
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