冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇60 ティラ〈ダンジョン満喫〉


ダンジョンだよ。ダンジョン!

規模は小さくとも、未知のダンジョン探検ってだけでテンションが上がる。いや、見学だったか。まあ、いいや。

そして、ウキウキしているティラの前をカムラが歩いている。このダンジョン見学に、カムラも同行することになったのだ。

カムラにすれば、久しぶりの仕事と張り切って集合場所にやってたら、そこにティラたちがいたのだから、それは驚いただろう。

村長も集合場所まで来てくれて、ティラたちが参加することになった経緯を説明してくれた。おかげですんなり受け入れてもらえた。

ダンジョンに一緒に潜るのは、腕っぷしの強そうなベテラン枠の猟師三人と、カムラを含めた鍛冶職人三人。
それと、ダンジョンの入り口に目くらましの結界を施している若い魔術師の男性がひとり。

彼はこのダンジョンの結界のために雇われているのだそう。

ちなみにダンジョンに潜るのは月に4回と決まっていて、必要な分だけ掘り出すようにしているらしい。

もちろん魔術師は他の仕事もしているそうだ。魔核石を魔石にするのが主らしい。
けっこう気さくな人で、仲良くなり、ダンジョンまでの道のりの間、それらの話を聞かせてもらえた。

そしてついにダンジョンに到着。
魔術師が結界を解除してくれ、すぐさま潜ることになった。

ティラたちは猟師二人、鍛冶職人三人の後に続いた。最後尾は残りの猟師で、魔術師は入り口で待機だ。

薄暗い中細い階段を延々下りて行くと、地下一階部分に着いた。予想していたより広い。魔灯が設置してあるので、十分な明かりもある。

でこぼこした岩壁には鉱石がたくさん顔を出していた。
普通の鉱山なら取りつくされてしまうだろうが、ダンジョンの恩恵で鉱石はあとからあとから湧いてくる。

もちろん魔獣も湧く。
ティラはのんびり歩いているが、猟師たちは魔獣退治で忙しい。

キルナは嬉々として参戦し、ゴーラドも頑張っている。まあ、出てくる魔獣は魔角鼠やら魔蝙蝠といった小物ばかりだったけど。

そして鍛冶職人さんたちは、時間を惜しむように鉱石堀りに勤しんでいる。

ティラは邪魔にならないように、掘られた鉱石を魔道具の袋の中に入れる作業を手伝うことにした。

魔道具の袋まで充実してるのにびっくりした。サイズはそれほどではないが、これは助かるだろう。村役場で管理されているものなのだそう。

「地下一階でこれって、凄いですね」

「そうなんだろうか?」

カムラから疑問として返ってきた。首を傾げたら、「俺はこのダンジョンしか知らないからな」と苦笑しつつ言われ、それもそうかと思う。

「君は他のダンジョンに潜ったことがあるのかな?」

「ありますよ」

「こことはどんな違いがあるんだい?」

「何もかも違いますよ。ダンジョンは、同じものはひとつとしてないです。ただ、ここはとても恵まれていますよ。出没する魔獣は強くなく、鉱石は豊富に採れるんですから」

「そうか」

ティラの言葉を聞き、カムラは嬉しそうだ。

一階での作業を終えて二階に降りたが、そこは単なる洞窟のような感じで鉱石も見当たらず、魔獣も出なかった。なのでそのまま三階に続く階段に進んでいくようだ。

うーん。気配がするけど……これって……

試しにつついてみようかと思ったけど、やめることにした。
ヘタな手出しはしない方がいい。ちょっと惜しいけど。

地下三階は、少しグレードの高い鉱石があるようだった。
鋼や錫、鉛など。鋼があるのがいいよね。

出没する魔獣も当然グレードアップ。昆虫系が多いようだ。
魔土蟻に魔羽蟻。羽鼠までいる。

一番厄介なのは魔土蜘蛛。こいつは毒持ちだ。けど、猟師さんは慣れてるようで、スパスパ切ってる。亡骸は全部魔道具の袋に回収だ。

三時間ほどが過ぎた頃、今回の予定は終えたようで戻ることになった。

キルナはそれなりに楽しんだようで満足そうだ。ゴーラドの方はダンジョンそのものが初めてという事で、感慨深そうにしてる。

二階に戻り一階を目指していたら、キルナが「ここにはジュエルボールがいるようだな」と言った。
キルナさんも、気づいたんだ。

「キルナさん、ジュエルボールとはなんなんだ?」

ゴーラドが尋ねる。

「魔物だが……知らないのか?」

誰も知らないようで、全員首を横に振っている。

「宝石のような魔核石を持つ魔物なんだが、物理攻撃を受け付けないし、下手な魔法を打てば弾かれて自分が危なくなる。まあ、触らぬ神に祟りなしってやつだな」

「攻撃してくることはないんですか?」

興味を見せてカムラが聞く。

「ジュエルボムにならなければ攻撃してこない」

「ジュエルボム?」

「攻撃されると集まって、ボムに進化する。魔核石も大きくなるから、わざと攻撃してボムになったところを討伐したりするんだが、手段を持たないなら手を出さない方がいい。爆発で命を落とす場合もあるし、ダンジョンを損壊してしまう可能性もあるからな」

「知らず刺激を与えて、ボムというものに進化してしまった場合は、どうすれば?」

不安に思ったようで、猟師の一人がキルナに質問する。

「塩を撒けばいい」

「塩ですか?」

「溶けて水になるんだ。魔核石も消えるがな」

キルナさん、さすがによくご存じだ。

「ならば、安全のために塩を撒いて退治してしまえばいいですか?」

「それはやめた方がいいな。ダンジョンというのは摩訶不思議なものだ。人が手を出しすぎると、仕組みが改変してしまう。そうなったら鉱石も取れなくなるぞ」

「それなら、これまで通り何もしないのがいいわけですね?」

「そうだな……」

キルナは地面を見回している。

「さすがに増えすぎてるか……」

「塩をまいて減らしましょうか?」

ティラはそう申し出て、塩を取り出した。

「数年は大丈夫なように、減らしておきますね」

さっそく地面に塩を撒いていく。すると、シュワーッと音がして地面に水が広がる。

「ほ、ほんとにいるんですね」

鍛冶職人のひとりが驚きに目を丸くして言う。他の人たちも同様の驚きを見せている。

わたしたちが同行できて、ちょうどよかったよね。

地面に飽和状態になったら、地中に潜っていられなくなって、地面から浮き上がる。
ジュエリーボールという魔物を知らなければ、攻撃してしまうだろう。そうしたら、ボムになって爆発。

誰かが死ぬことになったかもしれない。

正直言うと、ボムの魔核石は欲しかった。それもできたけど、好意で潜らせてもらったのに、そんな無作法はできない。

まあ、そんなことで、ティラとしては十分満喫できたのだった。





つづく



 
   
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