冒険者ですが日帰りではっちゃけます



◇99 長ヤカナ 〈反省を糧に〉


挨拶にきてくれた勇者様を見て、ヤカナは目を見開いた。

なんとなれば、勇者様の頭上に、疫病神が浮かんでいたのだ。

「これは、なんとしたことだ、ソーン」

驚きが過ぎて、ソーンに話を振ってしまう。するとソーンは、微妙な顔で説明してくれる。

「勇者様のペットなのだそうです。行方不明になっていたそうで……」

「ヤカナ様、この子が色々とご迷惑をかけたようですみませんでした」

なんと、この魔核石食いが、勇者様のペットだと?

た、確かに、迷惑は山ほどかけられたわけだが……

「ちゃんと連れて帰りますので、安心してください」

妖魔から救ってくださり、この疫病神までも里から連れ出してくださるとは。

申し訳ない気もするが、元々ペットであったと言うことであれば……厄介者を勇者様に押し付けるわけではないのだしな……

魔核石食いを気にしつつも、座敷に上がってもらい、お茶と茶うけに里の自慢である饅頭を山にしてお出しする。

勇者様は大喜びで饅頭を頬張られる。

昨日の宴の時、勇者様の食べっぷりには、はなはだ感嘆した。それはもう美味しそうにお食べになる。
そんなわけで饅頭も山盛りにさせていただいたのだ。

「ヤカナさん、外の世界について聞きたいことがあれば、どうぞ聞いてください」

ゴーラド様が話を切り出してくださり、ヤカナは感謝して頷いた。

外の世界の情報は全く得られていない。いまどんなことになっているのか知りたくはあったが、危険が伴う外の世界に里の者を調査に赴かせることなどできなかった。

「妖魔族と人族との戦いは、現在どのようなことになっているのでしょうか?」

「妖魔は大昔に、時の勇者によって滅ぼされたと伝承に記されている。生き残りがいるという噂がまことしやかに囁かれていたくらいでな。実際に妖魔に遭遇するまでは、私も半信半疑だった」

その話は驚くしかなく、ヤカナは口を開けたまま、物を言えずにいた。

昨日、妖魔族に襲われたばかりだというのに……もちろんこんなことは、里としても初めてのことで……

「つ、つまり、妖魔族は滅多に姿を現さないのですか?」

「妖魔族は妖精族さんと同じで寿命が長い分、めったに子どもが生まれないから、絶対的に数が少ないんですよね。だから、人間の国をいくつも滅ぼしたって話は、事実とは違うっぽいですよね」

すでに饅頭を全部食べてしまわれたらしく、勇者様はお茶をすすりつつおっしゃる。

「国を滅ぼしたって話、事実じゃないってのか?」

キルナ様は驚いたように勇者様に問われる。

「人間の数が多すぎますよ。いくら妖魔族が魔法が得意でも、人間にも魔法は使える者はいるし、国単位で滅ぼされるわけがないですよ」

「それもそうだな」

キルナ様は納得されたようだ。いや、それよりもいま、重要な話を聞いたような。

「人間も魔法を使えるのですか?」

「ああ、みんなではないがな」

「なんと……」

魔法を使えるのは、妖魔族と妖精族だけだと……

「それでも、妖魔族はいまもいるし、人間を馬鹿にして蔑んで、大昔の野望を抱いたまま。ほんと厄介ですよね。自分ら凄いって思い込んでるから、どうしようもないっていうか」

勇者様は呆れたように首を振られる。

勇者様の言葉に、実のところヤカナは動揺してしまっていた。
妖精族もまた、人族を能力なき者として下に見ているところがあったのだ。

ヤカナは数秒目を瞑り、深く反省するとともに、いま得られた貴重な情報をこれからの妖精族の民に生かすことを誓ったのだった。



◇ソーン

顔から火が出そうなほど、ソーンは自分の愚かさに恥じ入っていた。

妖精族としての誇りを持つのは、けして悪いものではないだろう。だが、それで人族を下に見ていた事実は褒められたものではない。

我ら妖精族を虫けらと呼び、見下していた妖魔族と同じではないか。

だが良き情報も得られた。妖魔族は人族との戦いで、全滅と言っていいほど数を減らし、人族の前にも滅多に姿を現さないらしい。

今回は、里が妖魔族に襲われてしまったが、勇者様達のおかげで、襲ってきた妖魔は全員捕らえられた。

もう安心しても……

「しかし、妖魔族にこの場所を知られてしまったわけだし、あいつらまた襲ってくるんじゃないのか?」

ゴーラドが気がかりそうに口にし、ソーンはどきりとした。

確かにゴーラド様のおっしゃる通りだ。

「その点については、大丈夫です」

ティラがあっさり言う。

「ティラ、断言できるのか?」

そう聞き返すキルナに、ティラは大きく頷いて説明してくれる。

「連れて帰った妖魔の主犯格に白状させたところによると、自分の陣営の……今回全員捕らえたわけですけど……者しかこの里のことは知らないってことです。単独で成果を上げて、妖魔族の王になるつもりだったみたい。どうも、妖魔たちは統制が取れてなくて、行動バラバラみたいです。ただ、ひとつ気になること言ってて……」

「気になること?」

「妖魔族、女の人が極端に少ないみたいです。なので、妖精族の女の人に目を付けてるみたいなんですよね」

「なんと」

「妖精族の里を必死に探してる妖魔も多いみたいなので、十分な用心が必要です。それについては、里のみなさんが求めるならば、わたしの父が相談に乗るとのことです」

「勇者様のお父上が?」

「はい。なんらかの措置を取ってくれるって。たとえばどんなって聞いたら、妖魔が里の結界に悪意を持って近づいた場合、塵となって消えるとか。まあ、そんな感じだって言ってました」

「すさまじいな。お前の父親」

キルナが呆れたように言うと、ティラは「頼りになりますよ」とクスクス笑う。

結果、勇者様の父上に長が相談するということで話は決まったのだった。

そしてソーンは、勇者様にすっかり心酔してしまっていた。





つづく



 
   
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